読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

パンとサーカス

〇 「国体論」の中で、天皇制民主主義によって、アメリカは、

日本人を上手く統治してきたという説明を聞くと、なるほど、と思います。

また、新聞小説の「パンとサーカス」では、具体的な物語として、現代にまで続くアメリカの「支配」を描いています。

 

五月二十日(284)と五月二十八日(292)分をメモします。

 

「五月二十日(284)

空也を国外に逃がす友情作戦は首尾よく運んだものの、この事実がバレるのは時間の問題と思われた。当然、キム・ユジンも無傷ではいられないが、彼はそれを承知の上で空也の密航に協力した。寵児が「テロリストに仕立てられた友人を救いたい」と相談した当初、キム・ユジンは「自分には無関係」と冷淡だった。だが、「このテロは、安全保障予算と米軍維持費の大幅な増額を認めさせるために、CIAと極右の政商が共謀した自作自演だ」という寵児の主張を聞く耳は持っていた。

 

 

その可能性を否定するどころか、「CIAなら、やりかねない」と真剣に取り合ってくれた。在韓米軍も南北和平を意図的に妨害し、安全保障の利権を貪り、事あるごとに韓国政府に法外な軍事負担を要求する。中国と経済的結びつきを強めようとすると、必ず邪魔をしてくる。キム・ユジンは韓米の連携を担う任務を遂行しながら、一人の韓国人として、祖国がアメリカの属領扱いされていることへの義憤に駆られてもいた。この陰謀を暴くことが至難の業であることも彼はよく理解していた。

 

 

空也と太郎ほか、テロを計画し実行した数名に全ての罪を被せ、幕引きを図ろうとしているグレイスカイの思惑をも彼は察していた。これを黙って見過ごせば、受動的に組織に奉仕し、その不正にも加担するいつもと同じ型の踏襲になる。ユジンは、服従か、抵抗か、どちらか選ぶ場面では、抵抗を選ぶ男だ。

 

 

 

ここで密かに寵児に協力しておけば、グレイスカイが摘発された時にポイントを稼げるとも考えたに違いない。たとえ勝算が薄くても、こちらの目に賭けてくれたのだ。

空也は寵児に蓮華の秘書のパソコンから盗み出したデータを託していった。すでにドローンの密輸ルートも、蓮華の秘書の売買への関与を裏付ける資金の流れも把握していた。

 

 

 

さらに蓮華とグレイスカイが共謀していた証拠と、CIAがドローン密輸の情報をテロ実行前に掴んでいた証拠を押さえれば、陰謀を実証できる。しかし、自作自演説を真に受ける政府関係者も、大手メディアも皆無であることは肝に銘じておかなければならない。いくら証拠を揃えても、政府はCIAとグレイスカイの方を信じ、寵児に沈黙を強いるだろう。この陰謀説に飛びつくメディアは、それこそ空也寄りの「エンドスコープ」くらいで、他の主要メディアが沈黙を決め込むことは火を見るよりも明らかだ。」

 

 

 

「五月二十八日(292)

蓮華はグレイスカイを「クソガキ」と吐き捨てるほど、憎んでいる。それなのになぜ二人は共謀するに至ったのか?それを聞き出す最初で最後の機会を逃すわけにはいかない。マリアの説得に警戒を解いたか、蓮華はしわがれ声で語り始めた。

 

 

 

― ほんまはグレイスカイを殺したかったんや。あいつだけは許せん。

 

― どの動機は何だったんですか?

 

― 話せば長くなる。蓮華家は親父の代からCIAに協力して、アメリカの占領政策の片棒を担いできた。親父は戦犯として追放されとったけど、CIAが復活の道を開いたんや。国粋主義者を反共勢力として利用するためやった。暴力団を下請けにして、企業乗っ取り、脅迫、メディア操作もやった。公営ギャンブルの利権ももろて、裏では武器売買も手掛けた。

 

 

 

アメリカ製の戦闘機の納入を政府に働きかけて、工作資金を貴金属や外国為替を扱うダミー会社経由で受け取ってたんや。その見返りとして、CIAの日本支部のアジア政策研究センターを作ったんが親父や。

 

 

― そこまで深い関係を築きながら、どうしてグリーンウォーターの暗殺や横田基地の攻撃を指示したんですか?

 

― あいつらは悪魔や、盗人や。CIAのお陰で蓄財したカネはCIAに返せ、いいよんねん。悪魔と契約したもんはとことん奪い取られてまう。暗殺とテロの資金出したんは、日本と自分の魂を売った罪滅ぼしや。日本をアメリカから取り戻さな、死んでも死に切れんわ。

 

 

― それは本心ですか?

 

― 本心やがな。国民から搾り取ったカネは国民に返さなあかんやろ。もうCIAにはびた一文払わん。カネのために反共右翼に走ったオレも親父も若い頃は社会主義に傾倒しとった。原点に戻るだけの話や。それで心の平和を買うて死ぬ。

 

 

― あなたは確信犯として、CIAを裏切ることにしたんですね。

 

― 復讐のつもりやった。今までアメリカの武器をぎょうさん買うたが、腹いせにロシアの武器を買うて横田基地攻撃したろ思うたんやけど、計画は事前に漏れてしもた。

 

 

― グレイスカイはテロを事前に把握していたんですか?

 

― ドローンを密輸したことを秘書が密告したんや。秘書とあいつは通じとった。もう、マリア以外誰も信用でけん。」