読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

国体論 ー菊と星条旗—

「第八章「日本のアメリカ」 ― 「戦後の国体」の終着点

      (戦後レジーム:相対的安定期~崩壊期)

1 衰退するアメリカ、偉大なるアメリ

▼ 衰退するアメリカとヘゲモニー維持の謎

世界システム論の論客に、経済史家のジョヴァンニ・アリギがいる。彼の主著「長い20世紀」は、ルネサンス時代以来の近代資本主義において、政治権力がどのように資本と結合し、あるいは分離してきたのか、またその二者の関係が歴史的にいかにして展開してきたのかを追ったものであり、より具体的には、軍事大国スペインを財政的に支えたジェノヴァ、オランダ、イギリス、アメリカという順でヘゲモニー国が遷移して行った歴史過程とそのん内的論理を追跡している。(略)

 

 

 

 

アメリカがふたつの世界大戦を通じて確立したヘゲモニーは、一九七〇年前後に、明白に揺らぎを露呈し始めた。それは三つの分野で現れた。(略)

 

 

軍事的に、米国はベトナムで深刻な状態に陥った。財政的には、アメリ連邦準備制度理事会は、ブレトン・ウッズで確立した世界資金の生産と規制の様式を維持していくのが難しくなり、次いでは不可能となった。イデオロギー的には、アメリカ政府の反共十字軍が国内外で正統性を失い始めた。(略)

 

 

 

アメリカ内の支配者集団は、もはや自分たちで世界を統治出来ないから、世界は自主管理でいって欲しいといっているかのようであった。その結果、まだ戦後の世界秩序で残っていたものまでもが、いっそう不安定となった。(略)

 

 

本書で論じてきた日本の近代後半の第一期(国体の形成期)から第二期(国体の相対的安定期)への転換は、実にアリギの記した右の文脈において生じた出来事であった。(略)

このように、いまからすでに四〇年以上も前からアメリカの超大国としての地位がはっきりと揺らぎ始めていたにもかかわらず、その地位がいまだに決定的には失われてはいないことは、あらためて驚くべき事実である。

 

 

 

▼ アメリカが日本に与えたもの

そして、そのアメリカのヘゲモニー維持の理由のひとつが、ほかならぬ日本である。(略)

対ソ戦略に加え、「中国封じ込め政策」という大方針があったからこそ、戦後日本に対してアメリカは寛大な保護の庇を政治経済の両面で積極的に差し出した。アリギは言う。(略)

 

 

 

このようにして、日本はアメリカの覇権下で、経済的背地を何のコストも払わずに獲得した。この後背地は、二〇世紀の前半に日本が領土の拡大で獲得することを目的とし、そのためにあれほど懸命に戦ったものであるが、最終的に第二次世界大戦での惨敗で失ったものである。

 

 

戦後の日本にとって生じたことはきわめて逆説的であったとアリギは指摘している。つまり、あの戦争での勝利を通じて獲得ないし防衛しようとしたものを、戦争に負けることによって獲得した。アメリカが戦後日本に与えたのは、民主主義のみではなかった。(略)

 

 

 

アメリカの反共主義政策の展開は、大枠で言えば、一九六〇年代に深刻化した中ソ論争を機として中国への接近を図ることで、中ソの離反を促進し、ソ連への圧力を高め、その延長線上で一九八九年以降のソ連軍東欧圏の崩壊を導いた。米中国交正常化は、このプロセスの始まりを印すものだった。

このプロセスの進展に伴って、アメリカが日本の寛大な保護者の役割を果たす具体的理由が失われてゆく。

 

 

 

▼「偉大なアメリカの回復」

かくして、アメリカにとっての一九七〇年代は衰退の雰囲気が濃厚な暗い時代となったが、この延長線上に今日のトランプ政権の「偉大なアメリカを取り戻す」のスローガンも理解されるべきだろう。(略)

 

 

 

かくして、結局のところ、経済軸で言えば、製造業の競争力回復ではなく、資本主義の金融資本主義化が「偉大なアメリカの回復」の手段となった。(略)

ネオコン派によって支配され、キリスト教原理主義者勢力によって支持された子ブッシュ政権の「先制攻撃ドクトリン」と、それに基づくイラク戦争アメリカの国際的信頼性を著しく棄損するなかで、金融資本主義化はその矛盾を露呈し、二〇〇八年のリーマン・ショックを引き起こす。(略)

 

 

 

それは、「アメリカの偉大さ」が現に失われていることに対する痛切な意識がアメリカ国内に広まっていることを物語っているし、「アメリカの偉大さ」に翳りが見え始めた一九七〇年から五〇年近く経とうとしているにもかかわらず、この観念はいまだに見捨てられていないことをもまた、物語っている。」