読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

人間にとって法とは何か


武士にとっていちばん大事なのは、本領安堵といって、自分の支配地が自分のものであることを、正式に認めてもらうことです。これが武士のいちばん切実な願いです。



自分が土地を所有するに至った経緯が複雑かつ曖昧なので、古い証文を出そうとなると、どうしてもすっきりいかなくなる。いろいろ土地の所有権争いが起こりますが、公家と公家の土地争いか、公家と武家の土地争い、つまり公家の土地が絡んでいる場合には、鎌倉時代の前半は、京都で裁判をしていました。



そして武家武家の土地争いだけを、武家の内部問題だからということで、幕府が鎌倉で裁判をするようになったのです。



この時代の裁判は、今日の裁判とは違って、自分で証拠を集めるばかりか、過去の判例まで調べて、弁論をするのです。そうすると、いろいろ古い記録を持って行かなくてはいけない。


裁判官は双方の言い分を聞くだけです。そうすると、御家人は有利になるのではとか、鎌倉幕府の将軍に忠誠を誓っていると、自分の土地はますます大丈夫かもというので、政権の基礎が安定した。



鎌倉幕府が成立した動機が、武士の土地を保証してやろうということですから、鎌倉政権は固有法を、これが法律だと宣言する必要がありました。それが関東御成敗式目で、律令法とはまったく無関係です。



ヨーロッパでも中世法というものがあって、日本とよく似た封建制で、土地の所有関係がゴチャゴチャしていました。日本の中世の法律は、ヨーロッパとほぼパラレルです。



そのあと、武士の実質支配権はますます強力となるいっぽう、公家や寺社の所有権はだんだん弱体化して、武家法に一元化していきます。その総決算として、戦国時代に土地の登記をしました。それが検地です。



過去のいきさつはともかく、現に誰が所有しているか、実効支配しているかということを基準に、改めて登記しました。秀吉の太閤検地が有名ですね。そして農民から直接税金を取り立てる、というシステムをこしらえたわけです。
そのあとは、江戸の幕藩体制になります。
江戸時代については、ひょく知られていると思うので、省略します。」