読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

フランスはどう少子化を克服したか

「これにはもちろん、保護者の方の発想の転換も必要でしょう。保育園と一緒に子どもを育てていくにあたり、大切なことは何か。保育士の限られた労働力を最適に使い、より良い心身の状態で、子供の世話に集中してもらえること、ではないでしょうか。」


「フランスの新学期の開始は9月で、「ある年の1月から12月までに生まれた子供」が、1学年とされます。(略)

入学条件は、二つ。おむつが取れていることと、在住の市町村に入学希望を出すことです。なので、こちらでは何か事情がない限り、3歳児は全員おむつが外れています。」


「各教室には必ず、二人の大人が配置されています。まず国家教育省の職員である担任教諭、そして市町村の職員「保育学校専門職員」です。

担任教諭が授業を信仰し、保育学校専門職員はそのアシスタントとして動きます。」



「授業内容も先生によって変わります。保育学校には決まった教材がなく、授業の進め方も教室の使い方と同様、各担任に一任されているからです。もちろん内容は国家教育省の指針に即している必要がありますが、やり方は先生によって多彩。」



「給食は有料の希望者制で、午前終了後に自宅に帰り、保護者と食事をする児童もいます。(略)少々古いですが2011年の調査データでは、共働き夫婦の子の7割が学校で給食を食べていました。


16時前後に、授業終了。保護者や保護者指定の代理人(ベビーシッターなど)が迎えに来られる児童はそのまま帰宅し、そうでない子は、同じ敷地内で市町村が運営する学童クラス(有料)を続けます。学童クラスは18時までで、これ以上の延長保育はありません。」


「義務教育前とはいえ、保育学校では一日しっかり、「学校のリズム」で過ごすのがお分かりいただけるでしょう。学童保育に行かない子でも7時間半、行く子は9時間ほどを団体の中で暮らすので、たいていの子どもたちは帰宅時、エネルギーを使い果たしています。次男は夜の寝付きが悪く、長めの昼寝をすれば22時過ぎまで起きていましたtが、保育学校に入るや否や、21時には寝るようになりました。


登校日数は年間180日、7月と8月は夏休みです。その他に年4回、つまり2カ月に一度、2週間ずつの休みがあります。

これぞ世に名高いフランスの「学校バカンス」で、保育学校から高校まで共通です。」


「彼らをどのように、集団の学校生活に適応させていくのでしょうか。

「無理強いをしないことですね」
そう答えるのは、公立の保育学校で19年の経験を持つベテラン教諭、オードレイ・メールさん。長男がお世話になった担任です。」



「どれだけ子供たちに「やりたい」と感じさせられるか、関心を引くことができるかが、私たちの仕事なんです。」



「保育学校の第一の使命は、子供たちに通学の意欲を抱かせること。学び、自我を確立し、その自我を十分に開花させるために、学校に行きたいと思わせることである。(略)


保育学校は特殊な教育課程であり、その特性は、以下の3点に定義される。
保育学校は、子どもに合わせる学校である。
保育学校は、固有の学習方式によって運営される。
保育学校は、子供が他者とともに生きることを学ぶ場所である。
  (国家教育省ウェブサイト「保育学校のプログラム紹介」より、著者要訳)」


「3歳から5歳の3年間は、教育の重要なファーストステップ。そこで身につけるものとして、国家教育省は以下の5分野を掲げています。

1 あらゆる場面での言葉を使わせる
2 体を動かして意思を表現し、理解する
3 芸術を通して意思を表現し、理解する
4 自分でものを考えるための基本技術を身につける
5 世界を知る
(国家教育省「2015年3月26日発特別官報第2号、保育学校の教育プログラム」より、著者訳)

この5つをまなばせるにあたり、4点の学習方式が重視されています。

_遊びながら学ばせる
_自分で考えさせる
_体に覚えさせる
_記憶させる

(略)
この国における23歳~5歳児教育を理解するのにとても良い資料なので、分野ごとの学習目標もご紹介します(巻末参照)。


〇ここを読みながら思い出したのは、小学一年生で、きちんと座っていられない子がいたり、話を聞くということができない子がいたり、勉強以前の問題で学級崩壊のようになる、という話。

核家族で様々な親がいるので、6年間親が育て、近所には遊ぶ友達も環境もない状況で育ち、7歳から集団生活に、ということには問題があるのかもしれない、と思いました。

あの、「中空構造日本の深層」の中でも、日本人はもともと大勢の中で鍛えられることで、真っ当に育っていたのに、今や核家族で、しかもその核家族に対応した規範もないままなので、子供にその問題が現れている、とありました。


「長男は学年ごとの成績表がある時代に保育学校に通っており、初めて成績表をもらってきた日のことは、とてもよく覚えています。

保育学校で最初の10カ月を過ごした結果、項目のほとんどは「未習得」と「習得中」。一瞬ショックを受けたのち、不思議と、どこかほっとした気持ちにもなりました。

この子の成長に気を配り、目を光らせているのは、親の私たちだけではない。先生たちもこのように細やかに、子供の発達をチェックしてくれているのだ、と。」


「5歳の世界はまだまだ、自分中心。だからこそ、彼らが生きる周辺以外にも違う世界や時代があるのだと、発見させるのが大切なんです。それが外へ目を向けるためのきっかけになります。」


「しかし、そこは労使交渉の盛んなフランスのこと。教師の勤務時間は週27時間、その他の業務(教員会議、遠足、学校評議会への参加など)は年間108時間までと、労働規約で定められています。これでどうやって、学校の毎日が回っていくのでしょう。

そのポイントは、分業制です。保育学校では教師以外にも2種類の職種があり、時間帯と役割ごとに、子供たちの教育と世話を分担しているのです。」



「1 [担任教諭] <主な仕事>授業、保護者とのやりとり
勤務時間は前述の週27時間+年間108時間が基本ですが、授業の準備や祭典、保護者対応などで、一週間の労働時間は平均44f時間に及ぶ、というデータもあります。

精神力・体力が求められる仕事ですが、その分生徒と同じように2カ月に一度、2週間のバカンスがあり、夏休みもたっぷりと2カ月間。(略)


「これは保育学校と小学校教諭に共通の免状で、3歳から10歳(小学校最高学年)までを教えることができます。」


「2 [保育学校専門職員]<主な仕事>担任のサポート、児童の生活面の指導
 歴史的にほぼ100%女性です。雇用主は市町村で、身分は自治体公務員。」


「3 [学童保育運営職員によるチーム]<主な仕事>朝・昼休み(給食含む)・夕・バカンス中の学童保育の運営

平日通学時間内の、学童保育チームの担当時間
昼休み 11時半~13時半 給食補佐、前後の休み時間の監督(校庭遊びなど)
放課後活動 15時~16時半(火・金のみ)通年で同じ人物が、保育学校専門職員と共に担当。各種文化活動、運動など
おやつ 16時半~18時半 おやつを食べさせた後、ゆったりと過ごす活動をする
水曜学童 13時半~18時半 各種文化活動、運動、校外活動など
                     (パリ市ウエブサイトより)」


〇 ここで、学童保育運営職員によるチームの仕事について読みながら、2つのことに感心しました。

まず、放課後の心配をせずに仕事ができる環境がある、ということに感心します。
私たちの街では、お母さんの中の有志が2~3人で学童保育の仕組みを作り頑張っていました。経済的にも時間的にも本当に大変そうでした。

そして、何よりもびっくりしたのは、この学童保育運営職員によるチームが、昼休みなどの目配り気配りもするということです。

もう、大昔になりますが、次男が小学校に入った時、次男たちの間には、なぜかみんなで遊ぶという雰囲気がなく(うちの子だけではなく)気になって、担任の先生に聞いたことがあります。

その時の担任は女性だったのですが、「教師は授業を受け持っています。休み時間は教師の担当ではありません。ですから、休み時間のことについて言われても困ります。」と言われました。

小学一年生と言えば、まだまだみんなで遊んで育つ時期だと思っていた私はびっくりしました。

「子供を通わせてみて実感するのは、「保育学校には大人が大勢関わっている」ということ。一クラスの児童数は25人と多いように感じても、計5人の大人が役割と時間を2等分してその子供たちを世話しているのです。

この分業のおかげか、私が見知った保育学校の関係者は、のんびりと穏やか。先生方ですら、目を吊り上げてキリキリした姿はほとんど見たことがありません(授業中はもちろん、そういうこともあるでしょが)。」



「保育学校の保護者参加はすべてが任意性で、やりたい人はやれがいいが、やりたくない / できない人にはほとんど負担がかからないようになっています。

3歳までをベビーシッターや母親アシスタントで乗り切ってきた友人たちは、保育学校に通い始めてから「毎日が本当に楽になった…」としみじみ喜んでいます。」



「「遊びながら学ぶ」指針が確立したのは、20世紀初頭。国家教育省の保育学校担当官であった女傑ポーリーヌ・ケルゴマールの、以下の提案が基礎となっています。


児童を尊重する
過度に教科書的な学習をしない
児童の活動として最も自然なものは「遊び」である
児童心理学的アプローチを深める
児童の年齢に適した施設・用具を使用する

    (ポワティエ・アカデミー「フランスの保育学校の歴史」より、著者訳)」


フランス革命の昔から、国を変えるのは一人一人の思いであると、この国の人たちは信じています。(略)

強い信念を抱く人々は民間にも国政にも広く存在し、双方の熱意が響き合って、社会が変わっていく_保育学校は、フランスのそんな国民性を如実に表す好例でもあります。」


「2015年改正のもう一つの柱は、保育学校による社会的不平等の是正だそう。大きな社会問題となっている教育格差は幼児期から始まるとされ、特に経済的に恵まれない地域の子どもたちに対しては、早急な対策が求められています。

そうして新たに提唱されたのが、保育学校の早期入学、つまり2歳児を受け入れる政策でした。」



「確かに、保育問題への貢献も効果のひとつとしてはあります。でもそれはあくまで効果のひとつ。保育学校の早期入学の狙いは、社会問題の複合的な対策なのです。その第一の目的は、教育の不平等の是正です。」



「義務教育の始まる前に、家庭環境に起因する子供の能力差を可能な限り縮めることは、保育学校の大きな使命なのです。義務教育ではないにもかかわらず、ほぼすべての子どもたちが保育学校に通う意味はここにあり、結果として、「託児所としての役割」は二次的と考えられます。」



「教育はフランス国家予算の配分率が最も高い分野で、2016年度予算編成での割り当ては670億7千万ユーロ、前年比5億1700万ユーロの増額が行われました。

潤沢な予算を手に野心的な教育政策を推し進める現在の国家教育大臣は、弱冠39歳の女性政治家ナジャット・ヴァロー=ベルカセム。モロッコ生まれで、5歳の時にフランスで建設労働者として働いていた父親について移住。フランス屈指のエリート校・パリ政治学院を卒業して政界入りし、フランス第五共和制で初めて、女性の国家教育大臣となりました。」


「今、大きな問題となっている子供の貧困も、公教育を早めることで改善策が提示できる可能性があります。そしてそれに起因する、社会格差の問題を是正する手段ともなりえるかもしれません。」


「保育学校のノウハウをクローズアップして見るならば、日本でもそのまま参考になることが幾つがあるでしょう。たとえば教師と学童保育チームの分業具合などは、過負担が論じられる保育・教育現場にも応用できるのではないでしょうか。

教育係と世話係を分ける、教師と保育学校専門職員の関係は、幼稚園や認定こども園でも取り入れられる可能性があります。


それでも、フランスの保育学校から得られる一番の示唆は、「初めは個人の熱意だった」ということではないか、と私は思っています。社会を変えることを諦めず、一人が仲間を募り、熱意を集めて形にすれば、いつかはそれが「国の保障する権利」にまで成長する。」



「すべての仕組みに「そうすべき」明快な理由があり、その運用にあたり、可能な限り現場目線での最適化がされている。

根拠となる法律との関連も明確で、私のような教育分野・法律分野の専門知識がない外国人でも、困難なく理解することができる。

合理主義をモットーとする国民性がとてもよく出ている分野だと書き進めながらしみじみと感じたものです。」


「「フランス人は文句が多い」と国家教育省の方も苦笑していましたが、それは常に現状に満足せず、「もっといい世の中にできる」と考えることをやめない、信念の裏返しでもあるのです。」

〇 私たちの国は「そうすべき」明快な理由だけでは動きません。でも、現実にそれでうまくいっている「実例」があれば、それを真似ます。

いつか、そこから一歩進んで、「そうすべき」で動く国になればいいのに、と心から願います。

「フランスはどう少子化を克服したか」のメモを終わります。