読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

2018-12-01から1ヶ月間の記事一覧

一下級将校の見た帝国陸軍(あとがき)

「(略)確かに追及らしきことも行われた。しかし追及するその人が、自分が戦争中何を信じ、何を言い、何を行ったかを忘れかつ棄却するための他者への追及は、追及という名の打ち切りにすぎない。 いまそれを批判することは、戦争中を批判すると同様にたやす…

一下級将校の見た帝国陸軍(組織の名誉と信義)

「八月十五日の高見順氏の日記は、この関係を示している。これは、そうなって少しも不思議ではない。人が、死に打ち克つことができない限りは_私は、暴君ネロと奴隷制という「死の臨在による生者への絶対的支配」の下に生きた使徒パウロが、なぜ「死に克つ…

一下級将校の見た帝国陸軍(組織の名誉と信義)

「武藤参謀長の”未決”の訓示には「軍の名誉のため、ワシもそうやって黙って処刑されるから……」という前提があったはずである。(略)従って一切を無視しうる。それは本当に無視しているのであって、無視しているふりをしているのではない。 これがどれだけの…

一下級将校の見た帝国陸軍(組織の名誉と信義)

「武藤参謀長の言葉は、一言でいえばこの原則「事実を口にせず、戦犯法廷の裁判長の判断を狂わせた上で死に、それによって組織の名誉を守れ」ということである。そして、この裁判長を上級指揮官とすれば、前記のように、それがそのまま帝国陸軍の実情であっ…

一下級将校の見た帝国陸軍(組織の名誉と信義)

「第三が部隊の名誉、特に、朝夕顔を合わせる部隊長の信頼を裏切りたくないという気持ちである。軍隊の表も裏も知り尽していた部隊長が、見て見ぬ振りをしているぐらいのことは私でもわかる。 そして「山本なら、絶対に口を割らん」と思っていることも明らか…

一下級将校の見た帝国陸軍(組織の名誉と信義)

「武藤参謀長の顔を見て、すぐ「彼だな」といった一種の緊張を感じたもう一つの理由は、全焼で「軍の名誉」と記した、その名誉に関するある噂であった。ま 前にも記したようにこのカランバン収容所群の中には、われわれが「未決」とか「一コン」とか読んでい…

一下級将校の見た帝国陸軍(統帥権・戦費・実力者)

「数年前、戦前長いあいだ陸軍省づめをしていた老記者に、この不思議な威圧感の話をしたところ、その人は深くうなずきながらさまざまな「武藤伝説」を語ってくれた。 一佐官だった彼に威圧されて将官があわてて敬礼してしまったこと。彼の上級者が、私を退役…

一下級将校の見た帝国陸軍(統帥権・戦費・実力者)

「人間誰でも心底では一縷の希望的観測を抱いている。自分が戦場にやられる前に戦争が終わってくれないだろうか、という淡い願望をどこかに持っていない人間はいなかった。もちろん私もその一人である。だがこのとき、「もうダメだ。行くところまで行くであ…

一下級将校の見た帝国陸軍(統帥権・戦費・実力者)

「統帥権の独立は、「ある時代の最も進歩的な考え方行き方は次の時代の始末に負えぬ手枷足枷となる」というケースの典型的なものであろう。そして、統帥権により日本国の三権から独立していた軍は、逆に、まず日本国をその支配下におこうとした。 そして満州…

一下級将校の見た帝国陸軍(統帥権・戦費・実力者)

「だが、規定はあくまでも規定であり、その発想の基本をわすれれば、この考え方には、いくつかの落とし穴があり、逆用も可能であった。その一つはまずその人たちが、日本軍を「治安軍」と考えても「野戦軍」とは考えなかった点である。 これは無理も無いこと…

一下級将校の見た帝国陸軍(統帥権・戦費・実力者)

「昼食の時間が来た。(略)だがその日には、いつもと違った一人の新顔が見えた。(略) 丸い元凶、丸刈りの頭、ぐっとひいた顎、ちょっと突き出た、つっかかるような口許、体中にみなぎる一種の緊張感_「彼だな」わたしはすぐに気づいた。それは第十四方面…

一下級将校の見た帝国陸軍(言葉と秩序と暴力)

「いろいろ原因があったと思う。そして事大主義も大きな要素だったに違いない。だが最も基本的な問題は、攻撃性に基づく動物の、自然発生的秩序と非暴力的人間的秩序は、基本的にどこが違うかが最大の問題点であろう。 一言でいえば、人間の秩序とは言葉の秩…

一下級将校の見た帝国陸軍(言葉と秩序と暴力)

「これが、この現実を見た時の小松さんの嘆きである。 そしてこの嘆きを裏返したような、私的制裁を「しごき」ないしは「秩序維持の必要悪」として肯定する者が帝国陸軍にいたことは否定できない。 そしてその人たちの密かなる主張は、もしそれを全廃すれば…

一下級将校の見た帝国陸軍(言葉と秩序と暴力)

「そして、虚構の階級組織が消失し、収容所で自然発生的な秩序が出て来た時は、その実情がむき出しになり、人脈・金脈・暴力の秩序になった。サント・トマスの「秩序維持の法廷と陪審制度」などは、遠い夢のおとぎ話に等しい。 小松さんは「慮人日記」で、こ…

一下級将校の見た帝国陸軍(言葉と秩序と暴力)

「「死の谷……」については後述するが、この中の「サント・トマス……」はちょうどわれわれとは逆の立場にいた人たちの記録である。 日本軍はマニラのサント・トマス大学を接収して、在比米英人等をここに収容した。(略) その一女性が、終始日本軍に管理され…

一下級将校の見た帝国陸軍(言葉と秩序と暴力)

「将官テーブルで食事をするのは、確かに気が重い。また、カッとなって陰口に等しい将官批判をしたことも事実である。しかし、現実問題として、あちこちと通勤して垣間見た他の収容所や現に自分の寝起きしている収容所と比べて、どの収容所が立派か、どこが…

一下級将校の見た帝国陸軍(敗戦の瞬間、戦争責任から出家遁世した閣下たち)

「従ってそう言いながら私は、自らの現状と対比しつつ、多くの暴将や暴参謀を思い出していた。それは何かが気にさわれば、狂ったように暴力を振い、「将校を殴り倒すのが唯一の趣味」といわれた師団司令部のK少佐参謀や「慮人日記」の「陣地へ女を連れ込んだ…

一下級将校の見た帝国陸軍(敗戦の瞬間、戦争責任から出家遁世した閣下たち)

「和気藹々はその日だけではなかった。そしてそれが二、三日続くと、今度はこちらが、肩透かしをくったような妙な虚脱感を覚え、閣下なんぞについて何かを考えるのはもう面倒だ、最初に記をつかったこちらが馬鹿正直だっただけだ、といった、一種投げやりの…

一下級将校の見た帝国陸軍(敗戦の瞬間、戦争責任から出家遁世した閣下たち)

「将官だけでなく、帝国陸軍そのものがきわめてこれと似た状態にあり、従ってその意味での無責任・無反省集団であって、それは、軍の内部ですら批判のあった「処罰されるべき人間が”人間的和によって”逆に昇進した」という事例に、よく現れている。(略) だ…

一下級将校の見た帝国陸軍(敗戦の瞬間、戦争責任から出家遁世した閣下たち)

「ただ奇妙に感じたのは、そのことが戦場への回顧につながらず、無意識の内にも逆にそれを切断するかに見える、それに応じて反射的に起った一連の会話だった。「一句いかがですか」「アハハハ、駄句りますか、御馳走を」とつづき、話題はたちまち俳句に転じ…

一下級将校の見た帝国陸軍(敗戦の瞬間、戦争責任から出家遁世した閣下たち)

「あてがわれた小幕舎の仕事場は、私一人の専用であった。机があり、その正面に窓があった。そこからは、乾ききった地表に炎熱の太陽が反射している、ひびわれた”運動場”が見え、そのはるか先の正方形の小幕舎が、将官たちの幕舎だった。 右隣は炊事、左隣は…

一下級将校の見た帝国陸軍(敗戦の瞬間、戦争責任から出家遁世した閣下たち)

「部下を殺し、国を滅ぼし、生きて虜囚となった、きっすいの帝国陸軍軍人_少なくともこの時点までは、たとえその人にどのような責任があろうと、彼に対して私が好意を持つ限り、その人から顔をそむけることが、その人に対する唯一の礼儀であり、好意の表現…

一下級将校の見た帝国陸軍(敗戦の瞬間、戦争責任から出家遁世した閣下たち)

「もちろん司令部に行くと、典型的なそのタイプが控えていて、シメあげる相手を待っていた。「ドロガメ」というあだ名のK少佐参謀で、これはもう箸にも棒にもかからず、到底常人とは思えず、全ての人が疫病神のように嫌いかつ恐れている人物だった。 何しろ…

一下級将校の見た帝国陸軍(敗戦の瞬間、戦争責任から出家遁世した閣下たち)

「おかしな話だが、米軍将校は私を芸術家と誤認していた。事実誤認は先方の勝手だし、誤認に基づいてタバコや缶詰という報酬をくれるなら、別に断る理由はあるまい、また極端な栄養失調状態から来るこちらの放心と無気力と怠惰を、芸術家のメイ想だと勝手に…

一下級将校の見た帝国陸軍(still live, スティルリブ、スティルリブ…)

「命令は文字通りに朝令暮改であった。といってもそれは一面無理はなく、主導権は完全に先方に握られ、先方が思うがままに造り出す情勢に、こちらはただただ振り回されるという結果になっていたからである。 斬り込み隊派遣が不成功となると、今度は「待ち伏…

一下級将校の見た帝国陸軍(still live, スティルリブ、スティルリブ…)

「サンホセ盆地はそれほど広くない。意外に時間が経っていたのは、司令部に近づくとともに一種「勝手にしろ」といった気持ちになり、途中の民家で三時間近く昼寝をしていたからである。 薄闇が迫るころ、一枚の紙片をもって彼が現れ、「何もおっしゃらずにす…

一下級将校の見た帝国陸軍(still live, スティルリブ、スティルリブ…)

「当時の状態はバガオから逃げ込んできた結果となった私も含めて、砲弾なき砲を捨てて来た砲兵、銃弾なき重機を捨ててきた機関銃隊が一種の「懲罰的な意味」乃至「名誉の死所を与える」式の温情的意味でビタグの隘路の死守を命じられ、同時に、順次に、生き…

一下級将校の見た帝国陸軍(still live, スティルリブ、スティルリブ…)

「闇の中で人が立ち上がる気配があった。その人は私に近づき、少し前でとまり、やや切り口上で言った。「いま収容された方ですか」「ハイ」私は答えた。一瞬の沈黙の後、相手はつづけた。「どなたか存じ上げない。階級も所属部隊もおうかがいしません。ここ…

一下級将校の見た帝国陸軍(組織と自殺)

「「S上等兵」私は、故意にきびしい声を出した。それはむしろ、自分に決心をさすためであった。「二人を指揮して、サンホセ盆地へ行け」。彼がどんな返事をしたかよく憶えていない。私はおっかぶせるように言った。「命令だ、行けッ」。二人の召集兵は驚いて…

一下級将校の見た帝国陸軍(組織と自殺)

「私はこの妙な気持ちを、収容所で海軍の老下士官に話したことがあった。彼は、「そうでしょ。特に夜ですな。艦が沈むときもそんな気になります。すぐ沈むと理屈ではわかっていても、白波の波頭だけがかすかに見える真っ黒な海に甲板から飛び込むのは、何と…