読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

2018-12-01から1ヶ月間の記事一覧

一下級将校の見た帝国陸軍(組織と自殺)

「いきなり逆に伏せたので、私の前の溝に四人の兵士が一列に伏せている形になっている。私はすぐ前のS上等兵に行った。「右へ匍伏し、河岸に出て、砲車の位置まで突っ走れ」 彼はうなずくと順々に前の者に逓伝した。ベテランの四人はすぐ指示を理解し、溝を…

一下級将校の見た帝国陸軍(組織と自殺)

「何もない。やはり敵はいない。「フン、またデマか、時間を無駄にさせやがって…」と思った瞬間、焔の少し先の道路にチラチラと動く黒い人影が見える。「オヤッ」と思い、四人が反射的に銃をかまえた瞬間、すぐうしろで「ピーッ」という呼子とも指笛ともつか…

一下級将校の見た帝国陸軍(組織と自殺)

「余りに急激な変転は、現実への実感を失わせる。自分のことが他人事のようにしか思えない。 「こりゃきっと悪夢なのだ、こんなことがあるはずはない。目がさめたら自分の部屋で寝ていたのだ」と感ずる。本当にそう感じたことは、それまでも再三あったが、バ…

一下級将校の見た帝国陸軍(組織と自殺)

「こういう例、「自決という名の明確な他殺」で、糾弾されざる殺人者の名が明らかな例も、決して少なくない。しかし、自己の置かれた位置が、必ずここに至ることを予見し、その屈辱の死を恐怖して、その前に自殺してしまった場合もある。 これが自殺・他殺の…

一下級将校の見た帝国陸軍(組織と自殺)

「自殺の原因や動機はさまざまであろう。また実際には他殺に等しい、強要された自殺もあるであろう。多くの場合、自殺の真因は不明だが、その中で最もわかりにくいものは、この両者の中間にある自殺、いわば本当に自分の意志なのか、実際は他人の意志であっ…

一下級将校の見た帝国陸軍(死のリフレイン)

「私はしばらく川面を見ていた。そのときである。かすかに吹く風に乗って、どこからともなくあのメロディが流れて来た。私は聞き耳を立てた。それは確かに聞いたことのない曲であった。不気味な川の面とこの曲が、何やら強い不安感となって私に迫り、言うに…

一下級将校の見た帝国陸軍(死のリフレイン)

「前にも述べたように、われわれは日没二時間前に、鍾乳洞”天の岩戸”を出た。E曹長は伝令一名をつれて、その一時間前に先発していた。明るいうちに無名河につき、渡河点を偵察するためである。(略) 砲身が九六キロ、砲架が約一〇〇キロ、揺架が確か一一〇…

一下級将校の見た帝国陸軍(死のリフレイン)

「車座の中に立つ二人は、本職ショオ・ダンサーだったのかもしれぬ。兵士にはあらゆる職業人がいるから、それは不思議ではない。この二人がぐでんぐでんになりながら、車座の合唱に合わせ、踊りとももつれあいともつかぬ、奇妙な所作を演じはじめた。そして…

一下級将校の見た帝国陸軍(死のリフレイン)

「ダメだ、もうダメだ」という状態に落ち込んだ時、その中における自分の一挙手一投足kを、そのまま正確に覚えていることは不可能に近い。I少尉救援の場合も、突っ込む直前でストップしたから覚えているわけで、もし突っ込んだら、たとえ生きて帰っても、…

一下級将校の見た帝国陸軍(最後の戦闘に残る悔い)

「翌十三日、朝十時ごろ。まだ撤収してこない彼を気にしながら、飯盒の中の籾殻だらけの飯を書き込んでいると、「バシッ」と鼻先を何かが通過した。「ありゃ」と私は呑気な声を出した。 次の瞬間、目の前のA上等兵が、パッと身を伏せると「少尉殿ッ、タマッ…

一下級将校の見た帝国陸軍(最後の戦闘に残る悔い)

「だが後で考えると、実に奇妙なことになっていた。掃討戦ともなれば、米軍はまず前哨を叩き潰して、ジャングルの出口に封をし、死に物狂いの逆襲を阻止しておく。ついてニューギニア式にドラム缶でも落して、ジャングル内の日本兵を焼き殺すつもりだろう。…

一下級将校の見た帝国陸軍(最後の戦闘に残る悔い)

「とはいえ食糧を盗奪せねば餓死する。だがジャングル前端付近の二、三家族用と思われる家屋群は、元来、米はほんの家族自給用で、本業はジャングル内の籐を切り出し、これを華僑の集買人に渡して石油・布・塩などの生活必需品と交換していたらしく、納屋の…

一下級将校の見た帝国陸軍(最後の戦闘に残る悔い)

「昭和二十年八月十二日、終戦の三日前、私は軍用地図にあるバラナン部落の東のジャングルにいたはずである。「はずだ」という言い方は妙だが、パラナンは地図にはあっても、それはどの部落がそれか現地で確認できないからである。 当時の比島の地図は、奥地…

一下級将校の見た帝国陸軍(参謀のシナリオと演技の跡)

「荒縄をぶった切り、箱をこじあければ、砲弾と薬筒が出てくる。野砲までは分離薬筒でないから、構造は小銃弾と同じである。従って薬筒の底に起爆薬がついている。それを叩けば爆発する。こんな危険なものの輸送に住民は使えない。 一方、私は、あらゆる人員…