読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

日本はなぜ敗れるのか _敗因21か条

「これは、対地震でも対食糧危機でも同じであり、もちろん戦争も例外ではない。そしてそれは昔も今も一般社会も軍隊も変わりはない。

人びとは危機を叫ぶ声を小耳にはさみつつ、有形無形の組織内の組織に要請された日常業務に忙しい。(略)

だがそのとき、誰かが、危機から脱する道はこれしかない、と具体的な脱出路を示し、そしてその道は実に狭く細くかつ脱出は困難をきわめ、おそらく、全員の過半数は脱出できまい、と言えば、次の瞬間、今まで危機危機と叫ぶ大声に無関心・無反応だった人々が、一斉に総毛立って、その道へと殺到する。


危機というものは、常にそのように、脱出路の提示という形でしか認識されない。
バシー海峡は、さまざまな意味で、そういう道であった。(略)

それは、われわれが、いかに、危機に対処できずに滅びるかを示す象徴的な「名」である。


一体、何がゆえに、制海権のない海に、兵員を満載したボロ船が進んでいくのか。それは心理的に見れば、恐怖にわけがわからなくなったヒステリー女が、確実に迫り来るわけのわからぬ気味悪い対象に、手あたり次第に無我夢中で何かを投げつけ、それをたった一つの「対抗手段=逃げ道」と考えているに等しかったであろう。

だが、この断末魔の大本営が、無我夢中で投げつけているものは、ものでなく人間であった。そしてそれが現出したものは、結局、アウシュヴィッツガス室よりはるかに高能率の溺殺型大量殺人機構の創出であった。

このことはだれも語らない。しかし、「私の中の日本軍」で記したから再説はしないが、計算は、以上の言葉が誇張でなく純然たる事実であることを、明確に示している。」