橋爪 つぎに民間銀行についてお尋ねします。
民間銀行の業務は、元手となる資金がなければ、できません。銀行は、主に預金というかたちで資金を集め、その資金を現金で保有したり、企業に貸し出したり、債権に投資したりしますね。
銀行は、預金者の急な預金引き出しに応じるために、支払い預金準備として現金やそれに準じる資産を持たないといけません。これを構成する現金/債権の比率について、何か法的な決まりはあるのでしょうか。預金準備金の額は、貸出総額の何%まで用意しなければならないと決まっていますか。
小林 まず、預金準備率は日銀が決めています。
橋爪 私が知りたいのは、銀行が保有する債権が値下がりしたらどうなるか、なんです。
橋爪 は、貸し出し。
小林 はい。いま銀行には、一般家庭や企業が大量の預金をしてくれています。ところが、そのお金の貸付先がなくて困っている。そんな状況がここ二〇年近く続いています。優良な貸出先はごく僅かで、しかも、それほど多くのお金は借りてくれない。
結局、大量の預金を政府に貸すしかなくなっています。それで仕方なく国債を買うわけです。「国債を保有すべし」という法律などありませんし、「国債を持つように」という行政指導があるわけでもない。本来なら銀行は、企業貸出だけでやっていたいのですが、それができないので国債を買っているのです。」
(略)
「橋爪 銀行はそのような自己資本を、負債総額の一定の比率以上、持っていなければならないわけですね。
小林 はい。国内だけで活動する銀行は四%以上の自己資本比率をキープしなければならず、海外でも活動する銀行は、この比率を八%以上にしておかなくてはなりません。
橋爪 なるほど。四%か八5.まあ、それなりの数字です。
もしもその数値を維持できなくなったら、どうなりますか。
橋爪 それは大変だ。それを避けるには、どうすればいいですか。
前者の場合、増資をすることになり、後者であれば、企業等へ貸し出した分を回収することになります。
(略)
橋爪 わかりました。
橋爪 銀行部門はかなりの割合じゃないですか。
小林 はい。一〇〇〇兆円のうち約三八〇兆円を銀行部門が預かっている計算です。
橋爪 簡単に言うと、一般家庭や企業が銀行に預けた預金が、国債に化けてしまった、ということですね。
小林 そういうことです。それには日本の特殊事情が関係しています。
橋爪 どういう特殊事情ですか。
小林 長引くデフレ不況です。景気が悪化していなければ、一般家庭や企業による銀行への預金は、企業へ貸し出され、それによって設備投資が行われる。しかし、デフレ下にある日本では経済成長率が低下し、企業のアニマルスピリットも委縮してしまったため、企業による借入が激減。このため銀行は貸出先を失い、企業に融資する代わりに国債を購入することになった。つまり、政府に対してずっとお金を貸してきたわけです。これがここ二〇年の経緯です。
(略)
橋爪 いま一兆円あるとします。そのお金で国債を買って、一年後には一〇〇億円の利子がつけばいいほうですよね。その一兆円で、二%の金利がつく外債を買ったとします。しかも円安のおかげで、三%分の為替益が転がり込んでくるとすれば、儲けの総額はざっとみて五〇〇億円。
一〇〇億円と五〇〇億円だったら、五〇〇億円の方が断然いい、と思いますよね。
そう思っても、日本の金融機関は、その昔に外債を買って大損した経験があるので、国債を売って外債を買おうとはしないのでしょうか。
小林 いや、合理的に考えれば、円安になるなら外債を買おうとするはずです。ただ、別のファクターに強く拘束されて、そうはならない可能性のほうが高い。というのも、国債の価格は、三菱東京UFJ銀行や野村證券といった少数の大手金融機関と財務省によって決まっているのが現実です。
そうした少数の金融機関が国債を保有していて、一度ですべては売れない為、国債の価格が下がると、売れ残った国債の値下がり分で自分自身が損をする。つまり、日本の大手金融機関は国債を売ると自分が損をするとわかっている。
売れば自分で自分の首を締めることになるので、国債よりも外債の方が利益になるとわかっていても、売るに売れないわけです。
橋爪 はあ。実際に売れないから、暴落しない。
小林 はい。暴落せずに、デッドロック状態に陥っている可能性があります。
もっと多くのプレイヤーが国債マーケットに参加していれば、外債への買い替えもスムーズに進むはずです。しかし、実際には一部のプレイヤーしか参加していませんから、そうはならない。
したがって、国債価格が暴落するような売り注文も出ない。誰も売ろうとしないので、価格も維持される。
橋爪 危なっかしいはなしだなあ。」