読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

一下級将校の見た帝国陸軍(一、軍人は員数を尊ぶべし)その5

「おかしいよナァ、実戦なんだから。軍隊だけは、絶対に員数主義があってはならんはずなのだが……」
なぜこうなったのか。ある人は、陸軍ご自慢の委任経理(実費経理でなく、一定金額を委任してやりくりをさす経理方式)がその元凶だと言い、これに対して経理将校が「冗談じゃない」と顔を真っ赤にして反駁する一幕もあった。(略)



またある人は、陸軍創設時に原因があると言った。当時の日本人は、当然のことだが、国という意識より藩の意識が強かった。従って「国軍」という意識が希薄なので、「殿様の密命で武器を横流しする」恐れがあった。



また西南戦争、竹橋騒動なども、これに似た危惧を抱かせた。小銃に菊の紋章を刻印し、これを家紋つきの「天皇家所属の兵器」と明示し、また「兵器は神聖なり」として、徹底した員数管理を行った理由はそこにあると。(略)



確かに帝国陸軍には多くの欠陥があったが、兵隊が小銃を売り飛ばして一杯飲んでしまったといった事件は、おそらく皆無であろう。
だがそのことと、それが員数主義と言う形式主義に転化していくこととは、別のことであり、この主義の背後にあるものは、結局、入営したその時に感じたこと、「二個大隊」と言わず、「近衛野砲兵連隊、一個大隊欠」と言いたがる一種の事大主義的発想ではなかったか。


そしてネグロス航空要塞も九十九里浜の陣地も「ある、しかし九九%欠」だったということであろう。
そしてこれが、すでに消滅した日本軍だけのことなら、その原因を今更探求する必要もないであろう_彼らはバカだったのだと言えば、それですむ。



確かに軍隊は消え、「五条の教え」は消滅したが、「六条」は果たして消えたであろうか。



_自転する官僚組織の上に乗った大臣の、言葉の辻褄だけをあわせた国会の「員数答弁」、数字の辻褄だけを合わせた粉飾決算という「員数決算報告」、員数数字が貸借双方に増えていく両建て預金_不可能命令と員数報告で構成する虚構の世界は、いたるところにあるのではないか。



比島から還ってある老舗のデパートに就職したKさんは、そこが大資本に無条件降伏したとき私に言った。「日本軍と同じですよ。重役の不可能命令と下部の員数水増し報告で構成された虚構の世界が崩れたということでネ。それだけです」と。



そして旧軍隊そっくりの員数主義がそのままに出ているのが、昭和五十年の春闘共闘委の西野事務局長次長の言葉である。氏は動員数二十万が虚構の数字ではないかと記者に突かれ、それに対して、


「つまらんことを聞きに来るんだねえ。二十万招集したわけだがら、ま、二十万人集まったと発表した。ただそれだけのことですよ」と言ったと「週刊新潮」に記されている。一言でいえば「二十万、ただし何万人かが欠」なのである。


これが陸軍だった。


「ネグロス航空要塞を造れと命じた。ネグロス航空要塞はできたと報告が来た。だから、ま、ネグロス航空要塞はあると言った。ただそれだけのことですよ」


「私的制裁は絶滅せよと命じた。私的制裁は絶滅したと報告が来た。だからない、と言った。ただそれだけのことですよ」であって、両者とも実数・実体は問題外としている。そして記録に残り、歴史に残るのはこの数すなわち「員数」なのである。




それでいいのだろうか?ある人は私に次のように言う。
「いまに日本は、国民の全部が社会保障を受けられますよ。ただそれが名目的に充実すればするだけインフレで内実がなくなりますからね。きっと全員が員数保証を受けながら、だれ一人実際は保証されていない、という状態になりますよ、きっと。健保がすでにそうでしょ。ガンになると、命がなくなったうえ三百万とられるそうですよ。


高校全入も員数くさいし、大学も員数だけはふえてるけど、教育というその内実はネエ……。結局、すべてが日本軍なんですなあ」



確かに「軍人勅諭五条の教え」は消えたが、「六条」だけは生き残ったらしい。その基本にあるものの一つは、事大主義とともに前述の「目前の仲間うちの摩擦」を避けることを第一義とする精神状態であろう。



そしてそれは、奇妙な「気魄」という演技で威圧される精神状態を生み出し、同時に、それに基づく「言いまくり」という「私物命令」を横行させた精神と同じもので、その基礎をなしていたであろう。これについては次章で記すが、これらが克服できなければ、結局、全日本が、第二の帝国陸軍になるだけのことではないのだろうか。」


〇 私は現在年金で生活しています。生活は切り詰めて、多少のアルバイトもしているけれど、でも、なんとか暮らしていかれます。ありがたいと思っています。
ここで言われているような、「員数保証」ではない、と言っておきたいと思います。

ただ、現実にはほとんど暮らして行けないくらいの年金しかもらえない人も周りにはす。
あの「ジャパン・クライシス」の中で橋爪氏が言っていた、「(ハイパーインフレになったら)全ての老人に一万ドル」のように、最低額の年金が全ての人に保証されるようになるのが、理想だと思います。



「一、軍人は員数を尊ぶべし」のメモを終わります。