読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

告白

読み終わりました。

ラストシーン、とてもとても心に染みました。

確かに忘れてしまっていた。

でも、そうそう… こういう終わり方だった、と思い出しました。

最初に読んだ時も、ここが一番印象的でした。

私は、先日、好きな人と一緒になれて、熊太郎は幸せだ、と言いました。

でも、縫は最後に「寅ちゃん」と寅吉に助けを求めました。

兄弟分の友人もいる、と言いました。

でも、弥五郎を信じきることが出来ず、自分の手で撃ち殺してしまいました。

好きな人も兄弟分の友人も、誰も熊太郎の元には残らなかった、という

結論になります。全部嘘だった、ということになります。


あの熊太郎が弥五郎に一生懸命に本当の気持ちを伝えようとして、

あれこれしゃべるシーン、あそこは本当に身につまされました。

私自身も同じような経験をした記憶があります。

言葉が上滑りして、全然うまく言い表せない。

そのもどかしさが、とてもよくわかります。

でも、なんとか伝えたいとクドクドと言わなくてもいいことまで、

言ってしまい、一般的には口にすることはないような、非常識なことま

で言ってしまう。

伝えたかったのは、そんなことまで「あなたに言う」自分の誠意というか、

本気というか、自分の中にはそういうものがあるよ、ということ。

でも、それは伝わらず、ただ言葉の持つ臆病さや卑怯者の感じ

だけが伝わってしまう。

そして、そんな風にお腹の中のものを全部明け透けに並べ立てた挙句、

相手からはっきり軽蔑され、見限られている雰囲気を感じる。

あるなぁと思いました。

そして、それでいて、逆にもし自分が弥五郎だったら、

私も熊太郎を簡単に見限って裏切るだろう、と思うのです。

私自身がそういう裏切る人間だから、

裏切られることが想定出来るのだと思います。

今、この歳になって思うのは、人はなかなかうまく伝えられないし、

伝えられたものをきちんと受け取れない。

それでいて、すぐに相手の想いや考えがわかったように思い込む。

熊太郎は、あの縫を淫乱と決め付けたけれど、

ひょっとしたら、縫も熊太郎と似たもの同士だったかもしれない。

うまく自分の気持ちを伝えられない人だったのかもしれない。

毎日放ったらかしにされて、寂しくて、寅吉とそうなってしまったのかもしれない。

でも、相手のそんなことは全然わかろうともしないで、

相手が自分をわかってくれないということだけ考える。

何か、そこのところがうまく噛み合うような智慧が必要なんだろうな、

と思います。

そうじゃない限り、多分熊太郎だけじゃなく、私だけじゃなく、

誰もが、孤独の中で、死んでいくしかないのが、

人間のような気がします。

なんてことをこの先もしばらくあれこれ考えてしまいそうな、

ラストシーンでした。