読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

山ん中の獅見朋成雄

なぜ好きだと思うのか…

はっきり言える理由の一つが、このナルちゃんが、モヒ寛を助けるシーンにあると

思います。

「呼吸音探し。ない。ないないない。「これ、あんたがやったんか?え?
こんなんあんた、警察行かなあかんで」とかぶつぶつ言うおじさんに
「うるさい」と言って黙らせて、僕は次にモヒ寛の裸の胸に耳を当てる。

肌はまだ暖かい。心臓の音……ない?ないのか?「脳みそでとるがなこれ。
あかんあかん。これもうどちみち死んでまうわよ」というおじさんに
「うるさいて。静かにして」ともう一回言ってから僕はモヒ寛の静まり返った
体内に耳を凝らす。心臓の音、心臓の音……ポグくり。一度だけ聞こえた。
確かめるためにもう一度……あれ?……ポグクリ。

聞こえた!かなり感覚が開いてしまって凄く弱々しいながらもまだ
心臓が動いている!「おっしゃ、まだ生きてる!」と僕は言って持ってきた
掛け軸をパラリと広げた。…(略)…うん百万?でも僕は構わない。」

やるべきことを全力でやる。優先順位を間違わない。

お金も「秩序」も格好も全てかなぐり捨てて、

モヒ寛の命を助けるために集中する。一心不乱になる。

この迫力がすごいなぁと思います。世界観が…とか価値観が…とか

言葉で云々ではなく、行動でその世界に引き込まれ、

その価値観で生きる世界を実感しているような気分になります。

そして、私は何よりこの優先順位が好きなのです。

靴を履いたままよその家に上がりこみ、おじさんに助けが欲しいと頼み、

動かしてはいけないといわれているモヒ寛を掛け軸を担架にして、

動かして救急車まで運ぶ。

わりとアメリカ映画には、このような展開があります。

一人の人の命の重さが、他のものを壊しても気に掛けないということで、

強烈に浮き彫りになる、という仕掛け。

中島みゆきの歌にも、「愛より急ぐものがどこにあったのだろう」

というフレーズがあるけれど、何故か私たちの国ではそういうことをいうのは、

頭がお花畑の人ということになって、恥ずかしくて言えない雰囲気があります。

それにも係わらず、しっかりそこを言う舞城王太郎って

好きだなぁと思うのです。