「それが失われて右手だけになったとき、知衣子が自分のバッグを右手で持ってる時には僕はどの手を繋げばいいんだろう?
バカバカしいことを考えている。知衣子が腕を失うかもしれないというところなのに、僕は自分が握る手のことばかりを考えている。そんなんじゃ駄目だ。僕はもっと知衣子の感じている恐れや痛み、苦しみなどをもっとちゃんと真摯に想像するべきなんだ。
でも僕が僕として寂しいのは知衣子の手を握れなくなることなのだ。」
〇 この具体的に実際的に語ってくれる言葉が本当にいいなぁって思います。
まるで、中学生か高校生のような語り口なのに、自分の寂しさと相手の状況を自分がどう考えなきゃならないか、という間にある葛藤のようなものをちゃんと表現してくれてます。
説教調でも思想的、哲学的でもないのに、あの司馬遼太郎が言ってた、
やさしさの訓練の糸口のような所へ、導いてくれます。
好きだなぁと思います。