読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

タイガーと呼ばれた子_愛に餓えたある少女の物語

「シーラの母親は家出していたときにシーラの父親と知り合い、妊娠した時わずか十四歳だった。母親の十五歳の誕生日の二日前にシーラが生まれた。その十九か月後に、第二子の男の子が生まれている。」



「教師としての経歴のなかでも、あのころのわたしには若さが最大の武器だった。まだ理想に燃えていた私は、問題児などいない、問題があるのは社会の方なのだと強く感じていた。(略)


私には、人間とは高潔なものであり、それぞれが誰にも奪われることのない権利をもっており、私の生徒たちもみんなその権利をもっているというはっきりとした信念があった。

まあ、あるつもりだったといっておこう。というのは、シーラは私のその信念に揺さぶりをかけてきたからだ。」


「シーラは他の子とはちがっていた。彼女には、彼女の目や、鋭敏な動きには、もっとも凶暴なときでさえ、何か電流が走るような刺激的な魅力があった。それが何であるのかうまく言葉ではいえなかったが、確かにそれを感じる取ることができた。」


「「あなたが読んだの?ずいぶん大人が読む本みたいだけど」
「ええと、全部は読んでない。でも表紙に「愛の奴隷」って書いてあったから、どんな本だろうって知りたくなった。絵のせいで。表紙に描いてある男の人が女の人にやってることのせいで」
「なるほどね」わたしはこころもとなげにこたえた。」


「この放課後の二時間は神様からの贈物だった。今までの短い人生のあいだずっとシーラは無視され、疎んじられてきて、あからさまに拒否されたことも多かった。成熟した愛情ある大人と一緒にいた経験も、おちついた環境にいたこともほとんどなかった。」



「しかし、それが彼女にとっていいことだったのか?この疑問はわたしの頭から片時も離れたことはなかった。教育学も心理学も、わたしの受けた教育は、こどもに個人的に深入りし過ぎてはいけないと厳しく警告していたので、わたしは正しいバランスを保とうという努力はしていた。

そのいっぽうで、決して深入りはするなという考えには、ずっと反発を感じていた。わたしの個人的な哲学の基礎は人との関りだった。個人と個人が、わたしとわたしの取り組んでいる子どもとがはっきりした関りを持ってこそ、前向きの変化を引き起こすことが出来るのだと感じていた。

相手に深入りしないでどうしてほんとうの関りが持てるといえるだろうか?そこにははっきりと矛盾があった。


本能的に、シーラはこういう関係を持たなければならず、それなしには一歩も前に進めないと私は感じていた。あなたのことを気にかけている人がいる。あなたのことを大切だと思ってあなたと関りを持っている人がいるということがわかって初めて得られる自尊心が彼女には必要だった。(略)


だが、頭では、自分が危ない道を歩き始めているということもわかっていた。」


「チャドと私は夏を境に別々の道をゆくことになった。私たちは三年ほどつきあい、特に最後の一年はとても親しかった。シーラが彼女なりの方法でわたしたちをよりいっそう近づけたともいえる。」



「だが、現実に立ち返ってさめた目で見ると、それがふさわしい姿ではないことがわたしにはわかった。チャドはわたしよりも年長で、若い頃にさんざんやりたいことをやっていた。でもわたしはまだとても若かった。

チャドと今より親しい関係になると生じてくる責任を受け入れるだけの準備が自分にはまだできていないことがわかっていた。


わたしにとってはその責任は非常に大切なものだったので、軽々しく引き受けたくなかったのだ。」


「シーラはサンディ・マグワイアの三年生のクラスに編入し、非常にうまくいっていた。サンディは毎月手紙で様子を知らせてくれていた。シーラがおちつき、友達もでき、学習面でも立派な成績をおさめているときいて私はうれしかった。


彼女が以前より清潔で、栄養状態もよくなって通学しているときくと、家庭状況がよくなったのかと希望がもててさらにうれしくなった。」


「それで、アントンは学区で助手として働きながら、近所のコミュニティ・カレッジ教師としての資格を得るために勉強することを決意したのだった。

アントンは元わたしの生徒だった子どもたちの消息によく通じていたので、彼から手紙をもらうのはほんとうに楽しみだった。」



「秋が来たがシーラは姿を現さなかった。私はサンディからシーラが学校に登録していないというびっくりするような知らせを受け取った。

アントンが事情を調べて手紙をくれた。シーラと父親は三百キロほども離れた州の反対側の小さな街に引っ越したというのだ。どうやら父親が仕事をみつけたらしく、彼らは学校が夏休みになった直後の六月に引っ越していた。」