読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

タイガーと呼ばれた子_愛に餓えたある少女の物語

「七月の初めにシーラの十四歳の誕生日がやってきた。サマー・プログラムが七月四日をはさむ四連休で中断する直前のことだった。八週間に及ぶこのサマー・プログラムのなかで誕生日はこれだけなので、ちょっとしたパーティーをやったらどうだろうか、と私はジェフにもちかけた。

教職についていた間はいつも、私は出来るだけクラスでお祝いをするように努力してきた。決まりきった日常のなかでの楽しい気分転換になるというのも理由のひとつだったが、障害があったり、家庭生活がうまく行っていなかったり、経済的な事情などのために、こういう子どもたちは他の場所でパーティーを経験することがほとんどないからというのが主な理由だった。」



「飾りリボン、風船、カラフルなピンク・パンサーの紙皿、紙の帽子、ケーキなどを目にして、シーラは気取って喜びを隠すなんてことはしなかった。嬉しさをむき出しにして、彼女は全てのものを手に取り、調べるようにしげしげと眺めた。

「うわぁ、これ、あたしのためにやってくれたの?すごい」そういいながら、彼女は帽子をかぶってみた。「うわぁ、こんなのかぶったことなかったよ。どう?鏡、ある?見てみないと」シーラは着替えのコーナーまでいって、そこにある小さな手鏡をとった。「こういう帽子かぶったらどんなふうになるだろうって前からずっと思ってたんだ」

〇そういえば、「シーラという子」は、1月から6月の五か月間の物語だったので、シーラの誕生パーティーはなかったんですね。

「ジェフからプレゼントを受け取ってから、シーラはしばらくじっとそれを見ていた。金色に輝く包装紙は私が今まで見たこともないようなもので、ジェフが誕生日プレゼントの包装にこんなに凝ることに私はびっくりした。


注意深く、シーラははりつけてあるテープをはがした。中身はシェイクスピアの「アントニークレオパトラ」のペーパーバックだった。シーラは本をもち上げ、表紙を眺めた。何と言っていいかわからず、ただ表紙をじっと見つめている。


「トリイから君がシーザーが好きだときいたものだから。これも同じ時代の話だよ」
ジェフはそういってシーラの顔を見た。「もう読んじゃった?」
口を開け、信じられないという表情をむき出しにして、シーラは頭を振った。


「これ、シェイクスピアじゃない」
「ああそうだよ。ジェイクスピアだからって悪く思わないでくれよ。だれが書いたかなんて忘れて、家に持ち帰ってよんでごらん。世界でももっともすぐれた物語のひとつだよ。心の友にめぐりあえるはずだ」
シーラはびっくりして顔を上げた。「あたしが?だれと?」
「読んでみればわかるさ」」


〇私は、シェイクスピアも全然何も感じません。ちょっとがっかりしてしまうけど、
事実なのでしょうがありません。


「シーラは微笑んだ。「誕生日が夏だってことずっと嫌だったんだ。他の子はみんな学校でなんかやってもらえるのに。たとえば<ハッピー・バースデー>の歌を歌ってもらうとかさ。だけどあたしは何もしてもらったことがないもの。ずっとこういうのしてもらいたいと思ってたんだ。

一度でいいからって。一度でいいからみんなの前に立って、他の人からあたしは特別だって思ってもらいたかったんだ」彼女はここで間をおいた。


「人って、小さい時にはこんなばかばかしいことがすごく大事なことに思えるんだから、おかしいよね」
私はうなずいた。
「マジにほんとのことをいうと、誕生日のお祝いをしてもらったのって今日が生まれてはじめてだったんだ」
私は再び頷いた。そうじゃないかと思っていた。


「「もうひとつの本のことは覚えているよ」とシーラはいった。「トリイのクラスで読んだ本だよ。「星の王子さま」。あの本をあたしに読んでくれたの、覚えてる?ずっと長い間、あの本は世界中で一番好きな本だった。いくら読んでも読み足りないくらいだった」
「ええ、よく覚えているわ」
「今でも好きな場面は全部暗唱できるよ」そういってシーラは私に微笑みかけた。
「あの本の中であたしが一番好きなもの、なんだかわかる?」
「王子さま?」私は思い切っていってみた。


シーラは首を横に振った。
「キツネ?」
「ううん、バラ。あたし、あのバラの花が大好きなんだ。あのバラはすごく気取っていて、自惚れやで、でも…バラにトゲが、四つのトゲがあって、自分のことすごく勇敢だと思っていたこと、覚えてる?

あそこのところ、覚えてる?バラは王子さまにこういうの。”爪をひっかけにくるかもしれませんわね、トラたちが!”」シーラは低いこわそうな声を出した。「そうすると王子さまがいうの。”ぼくの星に、トラなんかいないよ。それに、トラは、草なんか食べないからね””あたくし、草じゃありませんのよ”」ふたたび真に迫った声でいった。


”草”という言葉を発するときのシーラの声はきしるような音をたてた。「バラの花はとってもうるさいの。それでこういい続けるんだ。”あたくし、トラなんてちっともこわくない…”って」シーラはにっこりした。


「あの勇敢な小さなバラがどんなだか目に見えるような気がする」
「あなたがどうしてあのバラ好きなのかわかるわ。あの頃のあなた自身、ちょっとそのバラみたいだったもの」と私はいった。


シーラは鼻にしわを寄せた。「えー、そんなことないよ。お世辞はやめてよ、トリイ。花だなんて。ううん、あたしはむしろトラみたいだった。ガオーッ!」シーラはそういって、指をトラの爪のように丸めてふざけて私をひっかく真似をした。

「あたしはトラみたいなこどもだったんだ」」