「危険な「二・二・二」
橋爪 日銀券をいくら発行するかという、日銀券の発行残高は、だいたい決まっているのでしょうか。ま、経済の実需に応じて、多少変動するにせよ。
小林 はい。今は八〇兆円から一〇〇兆円です。日銀はそれを、二〇一五年までに二倍にすると言っています。
橋爪 えっ、二倍ですか。
小林 はい。二〇一三年四月に、そう約束をしています。
橋爪 そんなことしたら、大変なことになりませんか。
小林 日銀総裁の黒田さんが、それによってデフレを退治し、インフレにすると約束したわけです。
橋爪 それは病人に、興奮剤を注射するような話ではありませんか。
小林 日銀内や市場の投資家の間では、いまの日銀の金融政策は「二・二・二」の政策と言われています。二〇一三年四月から一五年四月の「二」年間で、百数十兆円のマネーサプライを「二」倍にすることで、物価上昇率を「二」%にする、というのが、今の日銀の政策目標だからです。
(略)
橋爪 逆に国債を、日銀が買わなければいけない。
小林 そうです。そういう状況に追い込まれる。
橋爪 貨幣をするのは簡単ですが、減らす方法がありません。買いオペで回収するといっても、それは小さな変化の場合であって、ある程度以上の変動が生じたら、それを減らす方法はありません。奈落に向って、トロッコで進んでいるような気がします。
こんなことしか考えつかないのなら、日銀総裁なんか誰にだってつとまる。
小林 そもそもマーケットの人々は、二%のインフレを達成できるかどうかに懐疑的です。だからインフレが二%を超えて上がり続けたらどうやってとめるか、という方法を誰も具体的に考えていないのです。
もし本当に二%のインフレになったなら、強力な財政再建なしでは、どう考えても出口が見えてこない。
橋爪 インフレが二%を超えることは、まったく「想定外」なのですね。打つ手なし。結局、ハイパーインフレに向っていく。
(略)
ハッピーなシナリオですが、これが実現するかどうかは、初期段階で日本政府が「財政再建をやり抜く」というメッセージを打ち出せるかどうか、それをマーケットが信用してくれるかどうかにかかっています。
橋爪 安倍政権にそれができるとは、とても思えませんね。安倍政権は景気を回復させてから増税を行うつもりでいるようですが、そもそも、これから増税が行われるようなタイミングで、企業は設備投資を拡大したりするものでしょうか。
小林 経済成長を促すことによって税収を増やすのも、財政再建の一種です。安倍政権の立場がまさにそれです。
橋爪 人口減少社会に突入した今、それはとても難しいと思います。」