読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

ジャパンクライシス

アベノミクスに「出口」はない

橋爪   安倍政権が進めているアベノミクスは、単なる時間稼ぎで、問題を悪化させているだけなのか。それとも、事態の改善に、多少は役立っているのでしょうか。


小林   稼いだ時間を有効利用できれば、時間稼ぎは「良いこと」です。たとえば、日銀による異次元の金融緩和でうまく時間を稼ぎ、その間に財政を立て直すべく増税を実施し、社会保障の給付を削減すれば、財政状況を改善することも出来るからです。


しかし、今のところ、財政の改革に本格的に着手するという気配にはなっていません。


橋爪   そもそもアベノミクスとは、何ですか。


小林   アベノミクスは三本の矢から構成されています。
第一の矢が日銀による金融緩和で、二〇一五年度末までに二%のインフレを実現させようとしています。(略)


第二の矢は、財政出動によって景気回復を加速させようとする施策で、公共事業がその典型です。(略)


最後の第三の矢は成長戦略です。これによって経済成長率が上がって行けば税収も増えて財政状況も自ずと改善するだろうというのが、安倍政権の目論見です。(略)



橋爪   なるほど。じゃ、アベノミクスの、問題点は何でしょう。

小林   端的に言って、「出口が見えない」ということです。アベノミクスは、財政再建よりも先に経済成長率を高めようとしています。その根底には、経済成長率が上がれば税収も増えていき、それに合わせて消費税率を一〇%まで引き上げておけば、いずれ財政再建も達成できるだろうという、楽観的な見通しがある。しかしそれは非常に甘い考え方だと思います。


(略)


小林   そうなんです。長期的な展望に基づく施策とは到底、思えません。「アベノミクスの行きつく先の出口戦略はあとで考えればいい」と無責任なことを言っています。


橋爪   目先の政権維持を優先させる、ポピュリズムそのものですね。


小林   アベノミクスが目指しているのは円安とインフレです。それが実現すればアベノミクスは成功だと政府は言っています。


(略)



つまり、どう転んでも、金利か物価のいずれかが高騰し、歯止めが利かなくなる可能性が高い。


(略)


小林   アベノミクスが成功すれば、必ずそのどちらかになると私は思っています。「いや、大丈夫だ」という説得力のある答えを私は聞いたことがありません。この件で安倍政権のブレーンと話をしたことがありますが、「日銀が国債の売買をうまくやれば、金利も物価も高騰せず、経済も安定する」と言うだけでした。


(略)



橋爪   日本国債を売って外貨建ての金融商品を買う動きは、とっくに始まっています。最近知人が中国工商銀行に行ったら、人民元建ての預金を申し込もうと日本人が詰めかけていて、驚いたそうです。(略)



小林   多くの富裕層が資産を海外に移し始めています。ドルもそうですが、目端利く人は人民元建ての預金を始めているはずです。いずれにせよ、アベノミクスにおいて「出口」を見出すのは非常に難しい。にもかかわらず、これを推進している政府側にその認識が薄い。これがアベノミクスに対する批判の一点目です。


橋爪   国民に幻想をふりまいて、病状を悪化させていますね。」