読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

安倍官邸とテレビ

「異常な「行政指導」乱発

第一次安倍内閣で 放送行政を統括する総務大臣をつとめた(二〇〇七年八月末の内閣改造まで)のは、現官房長官菅義偉氏だった。
この時期は、テレビ局への行政指導乱発、NHK国際放送での北朝鮮拉致問題報道に対する「命令放送」、NHK受信料支払い義務化の要請など、放送への政治介入を強めるとともに、二〇〇七年一月の関西テレビ(フジテレビ系)「発掘!あるある大辞典Ⅱ」捏造問題では、行政によるバングに介入に道を開く放送法改正を画策した。


とりわけ注目すべきなのは、テレビ局への行政指導乱発である。
テレビ朝日系「アフタヌーンショー」でやらせリンチ事件が起きた一九八五年から二〇一五年までの約三〇年間に総務省(郵政省含む)が行ったテレビ局への「行政指導」は、三六件。そのうち、第一次安倍政権の一年間だけで八件の「行政指導」があった。異常な多さである(ちなみに民主党政権下の三年三カ月で、放送局への行政指導は一件もなかった)。(略)」


「(1)NHK

NHKの「政治的背景」

NHKの法的位置づけは「特殊法人」である。根拠となる法律によって設立されたものが「特殊法人」であり、NHKの場合の根拠法は「放送法」である。日本で唯一の公共放送事業体だ。(略)


NHKの二〇一五年度予算は六八三一億円。世界の放送局で最大規模だ。このうち、受信料収入が六六〇八億円と九六・七%を占める。最も我々に身近な「国内放送番組の制作と送出」費(人件費・減価償却費含む)は五一〇六億円。単純計算で、一日当たり約一四億円が使われていることになる。二〇一五年度の職員数は一万二四二名だ。



NHKと政治との関係は長年問題視されてきたが、その仕組みは、実は、いわば民主主義を具現化したものといえる。
つまり、国民から選ばれた国会議員が構成する国会に、NHKの予算・事業計画の承認、および、NHKの最高意思決定機関である経営委員会委員の任命同意の権限を与えている。


また、所掌する総務省は予算・事業計画への意見付与権限を持ち、総理大臣は国会の同意を得て経営委員を任命する権限を持つ。


放送法上、NHKの会長は経営委員会が任命し、その選出には経営委員一二名中、九名以上の同意が必要とされる。逆をいえば、四名の反対があれば会長は決まらない。次章で詳述するが、安倍首相は、この規定を逆手にとって、自らの支持者や親しい「会」のメンバーをNHK経営委員に送り込み、間接的に、人事に影響力を行使している。


ちなみに、経営委員は放送法上、「公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者のうちから」(第三一条)選ばれることになっている。



歴代会長と自民党との因縁

NHKの歴代会長と経営委員長を九四、九五ぺージの【表2】に示す。戦前の「社団法人」時代を含む過去二一名の会長のうち、いわゆる「生え抜き」のNHK内部出身者はわずか六名である。(略)


郵政省から天下った第一一代会長の小野吉郎氏も、田中角栄氏に恩義を感じていた人物だ。第一章で述べた、田中氏による民放大量免許交付の際の郵政事務次官である。小野氏が会長在任中の一九七六年七月二七日、田中氏がロッキード事件で逮捕され、八月一七日に保釈されると、その一週間後、小野会長が目白の田中邸を訪問した。


ロッキード事件を追及するマスコミのトップが、刑事被告人を見舞ったとして批判が高まり、NHKに抗議が殺到。受信料支払い拒否者が急増したことから、日本放送労働組合日放労)の運動などにより、小野氏は同年九月、引責辞任に追い込まれた。
(略)」



「(2)民放

戦後生まれのメディア

かつて、元共同通信編集主幹の原寿雄氏は「日本のマスメディアで戦争に加担したことがないのは、民放だけ。民放は戦後生まれのメディアだから、平和を常に訴えて行く責務を負っている」と私に語った。


その民放の収入財源は「広告」だ。大学授業で学生に「広告にとって最も必要なことは何か」と問うと、様々な回答が出されるが、私が言うのは「平和」である。(略)



報道はワンオブゼム

民放と聞いて思い浮かぶ番組ジャンルは、何であろうか?バラエティやドラマをあげる人が多いのではないか。
それでは、民放で働く人で最も多い職種は何か?答えは「営業」だ。
二〇一四年七月三一日時点で、民放連加盟二〇五社(地上・BS)の従業員総数は、二万五九五六名。このうち、最も多い「営業」が五五九九名(二一・六%)。次いで「報道」四四一二名(一七・〇%)、「制作」三三一八名(一二・八%)、「管理」二六三三名(一〇・一%)、「編成・調査」二六三〇名(一〇・一%)「技術」二二八一名(八・八%)、「事業」一六四四名(六・三%)、「アナウンス」一五一七名(五・八%)の順だ。


つまり、「報道」はワンオブゼムに過ぎない。ここが、「編集優位」といわれ、記者が中心となる新聞との大きな違いである。(略)」