読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

中空構造日本の深層(※ 青年期の感性と自我形成)

「作田氏がS・ホールの言葉を引用しているように、青年期には「世界は奇妙で新たなものに見える」。この「奇妙で新たな」体験を重ねつつ、青年はその自我を確立してゆかねばならない。「これが私だ」と言えるような自我をつくり上げ、それがその人の存在する社会と摩擦を生じさせないものとなってこそ、彼は一個の成人となったということが出来るのである。」


「フランスの精神医学者アンリー・エーは、「意識しているということは自己の経験の特殊性を生きながら、この経験を自己の知識の普遍性に移すことである」と述べている。」


「林は結婚を決意したとき、妻を養うために画家の職業をあきらめ、他の職につこうとする。このときに彼は一種の何とも言えぬ解放感を味わうのである。(略)


ところが、彼が画家になる志を棄て、素直な気持ちでものを見るようになると、明暗とか、塊などということを超えて、ほんとうのものが見えだしたのである。彼はその時の感激を次のように書き記している。(略)」


「林は同書の中で青年期にひどい神経症になったことを述べているが、それは、彼が自我の崩壊のぎりぎりの線上に立って、感性の可能性の世界に挑戦していたことを示すものである。この戦いに敗れた者は、ひどい精神障害に陥ることになるであろう。」


「小説を読むことによって、青年は主人公に同一化し、その感性の世界の拡大と統合をはかる。このようなことは、小説のみではなく、絵画・音楽などの芸術の領域においても生じることである。

あるいは、スポーツ選手に対する同一化として生じることもある。筆者は青年期のノイローゼの人々の心理療法に従事しているが、このような青年が有名なスポーツ選手の姿に感動して、自我確立への努力を強化することを、しばしば体験している。」


「既に述べてきたように、自我は外界、内界からの刺激を受けとり、それを自我の体制の中に統合してゆくのであるが、現在のテレビやマンガなどに示される映像は、自我の統合力を無視して、過剰になりつつあると思われる。

たとえば、日本の子供たちの見るテレビマンガは、その残虐性が強いため、欧米においては受け入れられないことが、つとに指摘されている。」


「我が国の青年たちは、ともかくこれらの刺激を受け入れはするが、それを判断したり、統合したりすることを放棄しているかのように思われる。(略)

従って、そこには鋭い感受性と、低い道徳観や判断力の無さが同居することになる。」


「安易に感性の世界を拡大しても、それをいかに統合するかという点で、革新的なものを見出さぬ限り、それは本来的には大きい意義を持ち得ないし、古いものの塗りかえにすぎないものとなる。」