ジャパン・クライシス
「新円切り替えと社会保険制度のリセット
ハイパーインフレで、貨幣価値は一〇分の一まで下落。事態を改善すべく、通過の供給量を減らさなくてはなりません。この場合、どのような手立てがありますか。
小林 預金封鎖でしょうね。政治的に実現できる可能性は低いですが。
橋爪 かつてドイツは、預金封鎖を行わず、代わりにレンテンマルクという通貨を新たに発行した。
小林 そうです。なぜかそれで、ハイパーインフレがピタッと止まった。「レンテンマルクの奇跡」と呼ばれていますね。
橋爪 この新通貨を行き渡らせるために、どのようなことをしたのでしょうか。旧通貨とただ無条件に交換したはずはないですよね。
小林 そのはずです。背景には財政再建が進んだことがあるのですが、レンテンマルクでインフレが止まった直接の理由は今でも謎です。
橋爪 一人いくらまでという縛りをかけたのでしょうか。考えてみれば、預金封鎖をしても、現金を手元に持っている人が相当いたら、あまり意味がありません。新円の発行なら、手持ちの現金にも制限をかけるという効果が期待できます。
(略)
橋爪 ハイパーインフレは緊急事態ですから、社会保障制度もリセットしなければならない。年金の代わりに、例えば初年度は一人当たり一万円の新円(一万ドルに相当)を支給し、翌年度は一・二万円の新円を支給する。
こんな風に毎年、支給する金額を決めることにし、これまでの年金制度を廃止する、とか。
生活必需品も、配給切符を発行して各人に配り、それと引き換えに現物を渡すようにする。そうすれば生活必需品も、インフレの影響から逃れられる。ただ、生活必需品は、いろいろあるので、切符を管理するだけでも大変です。
小林 配給制はヤミ経済を拡大させるというように副作用があまりにも大きい。私は、市場経済の仕組みをあまり崩さない方が良いのではないかと思います。また新円に切り替えるに際して、旧円との交換レートをどう設定するかという問題があります。
橋爪 旧一〇〇〇円が新一円、ではどうでしょう。
小林 ブラジルやアルゼンチンは、インフレを止める目的で、新通貨をドルに連動させています。為替レートをドルに固定させるわけです。新通貨は、ドルと一対一えd交換できるのでインフレ率はアメリカと同じになる。こうしてハイパーインフレを止められるのです。
橋爪 それは名案です。すると、新円はいつでも、ドルと交換できなければいけませんね。
小林 そうです。しかし、そのためには十分な量の外貨準備としてドルを保有していなければならない。日本のような経済規模の大きい国でそれを実現させるのは大変です。
橋爪 政府が信用されないと、新円を手にした人は、すぐドルに替えてしまいます。
小林 そこは政府が信用されるよう、頑張らないといけない。しかし、円ドルを固定制にするのは、実際には非常に困難ですね。」