読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

ジャパン・クライシス

〇 151ページから174ページの「2 ハイパーインフレ、始まる」をそっくり飛ばしてしまいました(>_<)。

「2 ハイパーインフレ、始まる

scene2

(略)

桜の咲く季節を過ぎても、今年は肌寒い。就職内定の取り消しが相次いだが、ニュースにもならない。就職予定の会社が倒産を免れていれば、まだよい方だからだ。
近所のスーパーからコメが消えた。今仁の妻も、缶詰や小麦粉や、ありたけのものを買い込んでいる。物価はあがるが、サラリーは上がらない。節約するしかない。


今仁は先月、預金を洗いざらい引き出して、香港の銀行のドル建て預金に預け直した。銀行は、似たような客で混み合っていた。プロなのに、自分のことは後回しにしていたのだ。日本中で大規模な資金逃避が始まっている。これがかえって、日本経済の首を絞める結果になるのだが、誰をとがめることもできない。と今仁は思う。経済とは、そういうものなのだ。


(略)


日銀の杉田は、財務省についての情報をいろいろ聞き込んでいる。
「円安を放置するなと、海外の風当たりが強い。財政再建の緊急プランをつくれ、二週間以内だ、とアメリカから強く言われた。つくるにはつくったが、国会に出せない。


そこで、緊急補正予算を超特急で成立させ、そのあと財政再建を審議するのだが、だいぶ横槍が入って、骨抜きになっている。」


物賀は、眉を曇らせた。
「いや、今日貰った提案は、正論だ。必ず役に立つ日がくる。ただな…」

と杉田は声をひそめる。

財務省の幹部の中に、インフレは神風だ、と言ってるのが何人か、いる。この調子なら、何もしなくても、国債の発行残高が自動的に圧縮されていく。増税しなくても借金が返せるなんて、こんなうまい話はない。せっかくのインフレだから、もう少し様子を見ていたらどうか、なんてな。」


(略)

       ###


結局、翌月に発表された日本政府の緊急財政再建プランは、生ぬるいものだった。それでも、国会の審議は紛糾した。
その他政府は、資本逃避を禁止する法案を、国会に緊急提案した。
金利は二%を超えたあたりで、横ばいのままだが、それは日銀が、金融機関の保有する国債を無制限に買い続けているおかげだった。


金融機関への公約資金の注入も続いた。緊急補正予算の財源として、国債が増発され、すべて日銀に買い取られた。インフレは目に見える形で進行し、月単位で物価が上昇し始めた。


倒産件数は増加し、失業が増え、自殺も増加した。「人身事故」があまりに多いので、人々は朝早く家を出るようになった。


物価が高いので、家庭でも、学校でも、企業でも、現金が不足した。そして人々は、現金を手にすると、すぐにモノを買うようになった。


    ………………………………     


数十兆円が海外へ


橋爪   後戻りのきかない曲がり角を、もう曲ってしまったのが第二幕だと思います。でも本当の修羅場は、まだこのあとですね。


小林   整理もかねて、ここまでの話を復習します。
国債金利が二%上昇すると、日銀は国債をどんどん買って、金利が上がるのを押さえに掛かる。それが功を奏して、金利の上昇がとまれば、住宅ローンの借り入れ金利に波及することはありません。しかし、デフレ経済からインフレ経済に変わりますので、賃金が確実に上がるかどうかわからない中で、物価が上がっていく。あるいは、上がると予想される状態になる。


(略)


橋爪   それは、どれくらいの規模になるでしょうか。日本人の総金融資産一六〇〇兆円のうち、個人で動かせる預貯金は二、三百兆円ぐらいでしょうか。


小林   銀行の資産が九〇〇兆円くらいですから、自己資本分を引いて、五〇〇兆円は下らないと思います。


橋爪   五〇〇兆円! それが動いたら、大変なことになりますね。


小林   日本経済は確実に破綻します。


橋爪   目端の利く人が送金する分だけで、総額一〇〇兆円くらいの円が、あっと言う間に外貨に化ける可能性があるのではないですか。


小林   少なく見積もって数十兆円単位のお金が海外に逃避する可能性があるでしょうね。しかも、それによって、円安がさらに進んでしまう。


橋爪   そうやって海外に逃避した額が、政府の手持ち資金を上回るほど膨れ上がってしまうかもしれない。


小林   それが外貨準備高を上回ってしまうと、大変なことになります。


橋爪   私の友人の副島隆彦氏が「税金官僚から逃せ個人資産」(幻冬舎、二〇一三年一〇月刊)という本を出して、これがよく売れています。


小林   現時点でも、危ないと思っている人が少なくないからでしょうね。


橋爪   その本には、一〇〇〇万円を腹巻に入れて海外に持ち出しましょうといった、具体的なやり方が指南してある。


小林   それは違法行為かもしれません。大丈夫なんですか(笑)。


橋爪   でもそう、書いてあるんです(同書 一八ページ)。


小林   目端の利く小金持ちの人たちは、すでに資産を外貨建てに替え始めているはずです。おそらく億歳が暴落した時のことも、それなりに考えているでしょうから、実際に国債金利が上がり始めたら、一気にそれが加速するのは間違いありません。


橋爪   まだ火事になっていないものの、あたり一面、枯れ草だらけということですね。
もう一度、復讐しておくと、国債が増発され、それを日銀が買い支えることで、国債金利上昇は抑えられるかもしれないが、国債の買取が無制限に進み、通貨供給量が急増するため、インフレが進む。


正負の緊急対策も功を奏さず、金融危機が深刻化する。破綻しそうな銀行へは公的資金が注入されるだろう。しかし、それにも限度があり、地方銀行や中小企業の破綻が売発。企業マインドも冷え込んでしまって、失業者が増えていく。このように、通貨の増発→円安の進行→物価の高騰→債券安と株安の同時進行、というかなり厳しい状況になってくる。この第二幕は、もうその入口まで来ていますね。


小林   そうですね。ただ、金利が低く抑えられていれば、大手の金融機関が破綻することはまずありませんので、それ以上、情況が悪化することはないかもしれません。


橋爪   金利が低く保たれ、国債の価格が安定していれば、金融危機も、銀行による貸し剥がしも、起こりにくいということですか。


小林   はい。自己資本比率規制が原因の貸し剥がしが生じる可能性はあまり高くないと思うのです。」

〇 「ハイパーインフレが鎌首をもたげる」に続く。