読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

ジャパン・クライシス

ハイパーインフレが鎌首をもたげる

橋爪   でも、そのおかげで、インフレが急速に進むわけですよね。そうすると、この先もっとインフレになりそうだという予測が生まれて、人々の行動が、それを見越したものになっていくと思うんです。


たとえば、一九二三年にドイツで起きたハイパーインフレでは、最初は一見、景気が良くなった。外国からの観光客も増え、レストランも繁昌した。

小林   通貨安になりますからね。

橋爪   そして、消費が活発になり、貯蓄が少なくなっていく。


小林   インフレですから、そのまま物価が上昇していけば、財産が目減りしていくので、その前にお金を使ってしまおうという心理が働く。その結果、好況に沸く訳ですが、各人の貯蓄は減っていき、他方で、物価は上昇していきますから、それぞれの生活水準はどんどん落ちていく。


橋爪   当時ドイツでは、初めのうち、資産家階級を中心に派手な消費が行われていたようです。しかも金利が低いので、我先にとお金を借りまくって、不動産に投資する連中も出て来た。


一年かそこらで資産を何倍にも増やす。ニューリッチ層も出現したのです。でもそれは、ババ抜きだった。インフレのせいで一般人の所得や資産が失われ、それがニューリッチ層に集まっただけ。インフレは、こうした社会的不公正を極端に拡大させます。


小林   一般に、インフレは債権者(借入よりも資産が多い人)から債権者(資産よりも借入が多い人)への所得移転を引き起こします。ですからインフレになると、年金生活者や高齢者から若者へ、家計から政府や企業へ、の所得移転がどんどん起きることになります。非常にそれは不公正な所得移転であると言わざるをえません。


橋爪   当時の人々は、いま起こっているのが悪性インフレだ、という認識がなかったらしいんですね。為替相場で外貨に対して、マルクが何故かどんどん安くなっていき、国内の物価は上がり続ける。とにかくマルクが不足している。じゃあ、というので、足りない貨幣を供給するため、紙幣を印刷しまくった。



小林   それは金利を低く抑えていたからです。本来なら、引き上げなければいけなかった。


橋爪   貨幣を大量に印刷して供給したことが問題の根本だということが、中央銀行の当局者ですら、なかなか理解できなかった。


小林   当時は金本位制の時代でしたから、「一国の財政状況が貨幣価値を決める」という、マクロ経済の仕組みも理解されていなかったのです。


橋爪   なるほど。なにしろ一〇〇年近くも前のことですからね。


小林   はい。その後、だいぶ時間が経ってから、今のような認識が広まりました。


(略)


小林   物価水準Pが一〇倍になるわけですから、貨幣供給量Mも一〇倍になります。アベノミクスの例で言うと、Мを二倍にするのがその目標です。しかし、皆が国債を売るようになり、それを日銀が無制限に買い続けるなら、貨幣供給量は一〇倍くらいになってしまうはずです。


橋爪   一〇倍! 悪性インフレの場合、貨幣の流通速度Vがものすごく早くなるんですよね。


そこまで行けば、物価はもっと上がる可能性もある。


橋爪   経済活動が停滞し、物不足になれば、さらに物価が上がる。しかも、海外あ輸入しようにも、円安が進行しているから、それも難しい……


物価の高騰を止めるにはまず、貨幣の供給量を減らさなければならないわけですが、それには、国債の無制限な買取を止めればいいのでしょうか。


小林   そうです。しかし、その途端に、金利が上昇してしまう。


橋爪   金利が一気に上がる。じゃ、金融破綻しかないじゃないですか。


小林   五%上がれば、貸し出し金利も上がるわけですが、国債の値崩れも起きるわけで、金融破綻は避けられない。いずれ避けられないのなら、いっそのこと、悪性インフレになる前の早い段階で、金融破綻が起きた方がまだましなのではないですか。


小林   国債が暴落すれば、金融破綻のリスクが高まる。財政再建をしておけば、国債価格が急落することはありませんから、金融破綻もインフレも生じないわけですが、本格的な財政再建に着手しないというのであれば、インフレで日本経済が混乱する前に国債価格が下がった方がコストが少なくて済むかもしれません。」


〇  「一人当たり一〇〇〇万円消える」へつづく。