読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

ジャパン・クライシス

「一人当たり一〇〇〇万円消える

橋爪   インフレが悪化する前に金融破綻が生じた場合も、金融機関に公的資金を注入しなければならないので、通貨供給量は増加しますよね。


小林   確実に増えますね。


橋爪   金融破綻/通貨の過剰供給/ハイパーインフレ。この三つは必ず、セットで生じるものでしょうか。どれか一つだけでも起きないようにすることはできませんか。


小林   財政再建をやらずに、ということでしょうか。つまり、増税社会保障費のカットもせずに、日銀が関与できる範囲で、どれか一つを止めるということですか?

橋爪   はい。


小林   金利を思い切り上げれば、通貨の供給量を減らせますので、ハイパーインフレは止められます。しかし、その塗炭、金融破綻が起きてしまう。そうすると企業倒産が続発し、ものすごい不況になります。そこではインフレは収まっているものの、失業率が上昇し、企業が潰れていく。物価は安定しますが、大不況の陥ってしまう。
他方で、金融破綻を防ぐことについては、実際にそれが可能かどうか、ちょっと予測がつきません。


橋爪   預金を氷づけにしてしまう手があるのでは。預金封鎖をすれば、取り付け騒ぎも起きません。


小林   預金封鎖は、民主的な議会政治という枠内で実行できるかどうか……。
それとは別に、金利を押さえ続けるという手もあります。日銀が貨幣の供給量をどんどん増やしていき、ハイパーインフレが起きてもそれは放っておく。


それによって金融破綻を防ぐことができます。ただし、インフレ率は跳ね上がっているはずですから、第一次大戦後のドイツのように、国民経済は混乱の極みに陥ってしまう。


橋爪   ハイパーインフレのもとでは、お金を貸す人がいなくなると思います。貸しては、損をするのがわかっているわけですから。金利が低く抑えられ、しかもインフレ率が髙かったら、お金をただで人にくれてやるみたいなものじゃないですか。


小林   民間の貸し借りでは、本来の金利(実質金利)にインフレ率を上乗せした金利で貸し出しが行われるはずです。その一方で、国債金利だけを下げようとすれば、市場では国債を買う人はいなくなります。


民間の金利は高いのに、わざわざ低い金利でお金を貸す(つまり国債を買う)人はいませんからね。そうなると日銀がすべての国債を買わざるをえなくなる。


橋爪   日銀は貨幣を放出して、国債を買い取るので、通貨供給量が増える。するとますますインフレになる。


小林   そうです。発行量一〇〇〇兆円分の国債を、全額、ごく短期間のいうちに日銀は買い入れざるを得なくなるかもしれません。


橋爪   現金(日銀券)の流通量がいま、一〇〇兆円でしたっけ。


小林   はい。いまが一〇〇兆円なので、その一〇倍の量が一気に加わるわけです。


橋爪   やっぱり一〇〇〇%のインフレ、ですか。


小林   それが一つの出口ですね。国民生活はひどく逼迫し、困窮する。


橋爪   それって、国民の皆さん、死んでください、というようなものです。自殺者が五〇万人くらい出てもおかしくない。


小林   いま一二〇〇万円の貯金を持っている人は、それが一二〇万円分の価値しかなくなってしまう。


橋爪   国民一人当たりの平均預金の額がおよそ一二〇〇万円ですから、全員から一人一〇〇〇万円ずつ取り上げるのと同じことです。


小林   それによって、国の借金もチャラになるということです。


橋爪   結局のところ、壮大なババ抜きなんです。何度も言ってますけど。ここでは国債がババです。これを持っている人が最後に大コケし、実損を負担することになる。その原資が、国民の預貯金です。国債は安全な資産だと騙されていた国民が、自分の預貯金を丸ごと吐き出して、その穴埋めをしました、ということになる。


小林   財政再建に手を付けなければ、結局そういうことになってしまう。


橋爪   財政再建をやります、政府は頑張って借金をこれから返していきます、と言ってもその資金は、国民から集めた税金です。国民にしてみると、税金をたっぷり払っても、そこから公共サービスに回されるのはごく一部分です。


そうやって債務をちょっとずつなくしていくか、あるいはハイパーインフレで一気に預貯金を吐き出してしまうか、の違いでしかない。


小林   国民一人当たり一〇〇〇万を取り上げるという意味では同じですからね。違いは税金によってそれを行うのか、あるいはハイパーインフレによってそうなるのか、です。」


〇 「真面目な生活者ほど大損する」につづく