「負担を覚悟する
小林 言うまでもなく、財政再建です。
日本の国家予算を見れば、どれくらい財政状況を改善しなければならないかは一目瞭然ですが、われわれの多くがわからないふりをしている。
特別会計を別にすれば、歳出はほぼ九〇兆円です。これに対して税収は四十兆円で、残り四五兆円ほどは、国債の新規発行によって賄われています。ということは、国債残高がこれ以上膨らまないようにするには、毎年、四五兆円分の穴埋めをしなければなりません。
しかも、債務残高は既にGDPの二〇〇%を超えています。ですから、四五兆円分を補填しただけでは、残りの債務の金利負担が膨らんでしまう。GDPに対する国債の比率を押し下げて、その状態を維持するには四五兆円のほか、一五兆~二五兆円分、財政収支を改善しなければなりません。つまり、計七〇兆円ぐらいは必要です。
橋爪 金額が巨大で頭がくらくらします。これを家計に置き換えてみましょう。
借金漬けの家族がいた。毎年の支出が九〇〇万円なのに、稼ぎは四五〇万円しかない。残り四五〇万円は、毎年、借金でまかなっているとします。来年から新規の借金をゼロにするには、新たに四五〇万円を余計に稼ぐか、支出を四五〇万円減らすか、しなくてはなりません。
でもそれだけでは不十分。過去の借金がたまっている。怖い取り立て屋が来ないようにするには、四五〇万円に、過去の借金の利息分二五〇万円も加えた、七〇〇万円を毎年どうにかして捻出しなければならない。
七〇兆円というのは、こういう意味ですね。
小林 日本のGDPは約五〇〇兆円ですから、七〇兆円という額は、その一四%に相当します。対応策としては、政府がその分を税金で徴収するか、あるいは政府の歳出をGDPの一四%分減らすか、あるいは両方の合わせ技にするか、そのいずれかしかありません。
七〇兆円といってもピンとこないかも知れませんので、消費税率に置き換えてみましょう。七〇兆円というのは三〇%の増税に相当します。二〇一三年の五%に、さらに三〇%を上乗せすることになりますから、消費税率は三五%となる。しかもそれを、ほぼ永久に固定しなくてはなりません。
橋爪 「ほぼ永久」なんて曖昧な言い方じゃなしに、消費税三五%を、何年間続けると借金がゼロになるのか、教えてください。
小林 残念ながら、ゼロにはなりません。この政策の目標は、GDPに対する公的債務の比率を現在の二二〇%から六〇%にまで、一〇〇年かけて引き下げることにあります。
(略)
小林 いや、ゼロにはなりません。GDPに対する公的債務の比率が六〇%になれば、日本経済は健康体になったといえるので、六〇%にすることが最終目標なのです。また、債務残高がGDPの六〇%になるまでには一〇〇年以上かかりますが、この政策を五〇年も続ければ財政は目に見えて改善し、財政破綻が起る可能性もなくなります。もちろん、債務は残りますが、確実に返済できるという見通しは立っているはずです。
橋爪 それなら、やるしかないでしょう。
二〇一五年一〇月に一〇%まで引き上げるのさえ実現できないかもしれないというのが、現状です。そう考えると、消費税率三互%というのは、とてつもなくハードルが高い。
橋爪 国民がきちんと説明を受けていないから支持せず、国民の支持が得られないから、政治家が嫌がるのではないでしょうか。
小林 そうだと思います。このまま行けば一〇〇年後の財政状況がどうなっているかの試算を、政府やシンクタンクがきちんと示せば、国民の危機意識ももっと高まるはずです。
その上で、消費税率を三五%まで引き上げるのが、一番ストレートな政策なんですが…。
橋爪 それが一番手ッ取り早い処方箋だと、私も思います。
中国と戦争すること自体が間違っていたのだから、さっさと兵を引き揚げるべきでした。いまもそれと同じ状況です。消費税を三五%に引き上げるのは、まさに中国から撤退することです。
小林 そういうことです。まさに撤退シナリオなんです。
橋爪 消費税率を三五%に引き上げたばあい、国民の負担が増すのは当然として、それ以外に、何かまずいことが起きますか。
小林 (略)生活パターンは変えざるをえなくなりますが、中流以上の人なら、生活が破綻するほど深刻な事態にはならないでしょう。
(略)
橋爪 生活保護はいいが、現金を渡すと、パチンコなどギャンブルやアルコールに化けてしまうかも知れない。食糧クーポンなら、その心配がありません。
小林 たしかに食糧クーポンの導入は真剣に考えた方がいいかもしれません。」