「アトレーユは、今はもう一人前の狩人になっているであろうあのときの狩仲間の子どもたちの名を呼んだ。が、何度呼んでもだれも答えてくれなかった。
(略)
幼ごころの君になんと申し開きができただろう。アトレーユは狩人にもなれなかったし、もはや、使者でもなかった。だれでもなかった。
アトレーユはもう一切をあきらめていた。
「それはまったくのところ、その中心にゆこうとする意志のみにかかっているのだ。」
「お姿は幼い女の子のようですがね。しかしファンタージエン中一番の年よりよりもお年は召しておられるんですな。お年のない方といったほうがあたっている。」
「以前は青々としていた牧場や色とりどりの草原だったところも今はぼやけてしまい、腐ったかび臭い悪臭がかれらの方にまでかすかに漂ってきた。
わずかに残っている色は、ぶくぶくとふくれあがった大きのこや、変種した花のいかにも毒々しいどぎつい色だけで、それはいわば、狂気と退廃の落とし子のようだった。
ファンタージエンの最後の、最も内なる命は、四方八方からとり囲みじわじわと侵食してくる絶体絶命の虚無んbに、力なくおののきふるえながら、ようやくのことで抵抗していた。」
「そして、そう思ったとたん、幼ごころの君の名前がわかった。月の子、モンデンキントだ!これこそ幼ごころの君の名前だ。絶対にこれだ。」
〇名前って不思議だと思います。あの彩雲国物語でも、何度も言いましたけれど、何故こんなにも素敵で、こんなにもぴったりあった名前が付けられるのか、驚いてしまいます。
私にはそういう名前は全く付けられない…(>_<)
ただの名前なのに、すごい!と思います。
この物語はドイツ語で、ほとんどなじみがなく、素敵なのかどうか、よくわかりませんが、でも、「正しい名前」が必要、というのは、とてもよくわかります。
「すべての虚偽は、かつてはファンタージエンの生きものだったのです。もとは同じなのですが、見分けがつかなくなっているのです。まことの姿を失ってしまっているのです。」
「ここにきた人の子たちはみなこの国でしかできない経験をして、それまでとは違う人間になってもとの世界に帰ってゆきました。
かれらはそなたたちのまことの姿を見たゆえに目を開かれ、自分の世界や同胞もそれまでとは違った目で見るようになりました。
以前には平凡でつまらないものとばかり見えていたところに突然驚きを見、神秘を感じるようになりました。」
「「どうして新しい名を得られることだけが、女王さまのご健康をとりもどす方法なのですか?」
「正しい名だけが、すべての生きものや事がらをほんとうのものにすることができるのです。」幼ごころの君はいった。「誤った名は、すえてをほんとうでないものにしてしまいます。それこそ虚偽の仕業なのですよ。」」
「「ちがう、そうじゃないよ!」バスチアンは叫んだ。「そんな風に思っちゃいけない!絶対にそうじゃないんだから!ああ、お願いだから、ぼくのこと、そんなふうに考えないでくれよ!ね、聞こえるかい?そうじゃないってば、アトレーユ!」」
「バスチアンは自分が不意にかれらの前に現れたらどうだろう、と想像してみた。でぶでエックス脚デチーズのような顔の自分。」
「さすらい山の古老は、さがしてもだめで、見出さなくてはならないのです。」
「「君はすべてを人の子一人の手にゆだねようと、本気で考えておるのか?」
「本気です。」
そして、声を少し低めていいたした。
「それとも、あなたに何かほかの考えがあるのですか?」
「バスチアンは、どうすることもできなかった。耳をふさいだが、声はかれの内からひびいてくるのでだめだった。バスチアンは、自分のこととこんなに一致しているのはきっととんでもない偶然にすぎないんだという考えに、そうではないとわかっていながら、なおもしがみついたが、(略)
じっと息を殺し、出来るだけ小さくなって、自分などいないようになろうとけんめいになった。もちろんなんの役にもたちはしなかったが。」
「そ、それは、」バスチアンはどもった。顔が赤くなったのがわかった。「ぼくが思うふさわしい人というのは、勇気があって、強くて、美しくて、_王子様とか、そんな人_とにかく、僕のようじゃない人です。」
「バスチアンは自分が美しいのがうれしくてならなかった。」
============(夜の森ペレリン まで)=========