読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

はてしない物語

〇 「Z 命の水」のメモから始めようと思ったのですが、少し戻って、以前飛ばしたところ、「H 妖怪の国で」から「M 夜の森ペレリン」までのメモをしようと思います。

「「そうだよ! そうだとも!」バスチアンは大声でいった。いってから自分の声にぎょっとして、小声でつけ加えた。

「ぼく、きみたちを助けにゆくよ、どうすりゃいいのかわかってさえいればなあ!その道っての、ぼく知らないんだ、アトレーユ。ほんとうに知らないんだ。」」


〇 ここで、「助けに行くよ」という人と、「所詮、これはお話」と思う人の差は大きいと思います。

子どもだから、というだけではないような気がします。言葉に対する思い入れの強さの差のようなものを感じます。

「ところが今は、思いもかけず間近に直面したのだ。虚無は目の前全部を斜めに区切って大きくすっぽりと包み込み、ゆっくりと、しかし一瞬も止まることなく、じりじりと近づいてきていた。」


〇この虚無の広がり方のイメージは、現実の虚無の広がり方のイメージに重なります。


「アトレーユは自分の身体が少しずつ、ぐいっぐいっと虚無に向かって動きはじめたのに気がつき、愕然とした。虚無の中にとびこんでしまいたいという欲求が圧倒的な強さで襲いかかってきたのだ。

アトレーユは気力をふるいおこし、歯をくいしばってふんばった。そして、ゆっくりと、実にゆっくりとながら向きをかえ、目に見えない強い水の流れに逆らって進むように一歩一歩を前に押し出し、ようやくそこから離れることができた。

吸引力が弱まった。」


〇「講談社現代新書 ミヒャエル・エンデ (安達忠夫著)」の中に、エンデは学校で落第が決まった時、家に帰るよりは、むしろ溺れて死のうとした、という文章を読んだ記憶があります。

今は、きちんと見つけることができないのですが、ここを読むと、「虚無の中に飛び込んでしまいたいという欲求の圧倒的な強さ」を感じます。


「フッフールは幸いの竜だった。何もかもいずれはうまくゆくというかれの信念をゆるがすものは、何もなかった。どんなことが起ころうとも、フッフールはけっしてあきらめなかった。」


〇 この「楽天的な気質」というのも、今や脳内のなんとか、という物質の量によって、決まるのだとわかっている、とあの「サピエンス全史」に書かれていました。

でも、こういう人と一緒にいるのは、本当に楽だろうな、と思います。
私はどちらかというと、反対の気質です(>_<)


「やつら、希望をなくしちまったのさ。そうなると、おまえたちは弱くなる。虚無はおまえたちをぐいぐい引っぱるのよ。ふみこたえられるものは、まずいねえな。」そういいながら、グモルクは毒々しい声を腹の底からひびかせて笑った。」


「「おまえ、虚無を見たことがあるかい、ぼうず?」
「何度も見た。」
「どう見えた?」
「盲になったようだ。」
「うん、そうだろ。_そこでだ、お前たちがその中にとびこむと、そいつがおまえたちにとっつく。その虚無がだぜ。おまえたちは伝染病の病原みたいになって人間どもを盲目にしちまう。

やられた人間どもは見かけと現実との区別がつかなくなる、とこういうわけだ。あっちでおまえたちのことをなんと呼んでるかしってるか?」
「知らない。」アトレーユは低い声でいった。
「虚偽(いつわり)だよ!」グモルクは吐きだすようにいった。(略)


「おまえはあっちで何になるかってたずねたな。それじゃきくがね、おまえはこっちでいったいなんなのかよ、え?おまえたちファンタージエンの生きものってのは、なんなんだい?夢に描かれたものにすぎんじゃないか。


詩の世界のつくりもの、はてしない物語の中の登場人物!おまえは自分が実在するものだと思ってんのか?ぼうず。まあ、それもいい。このおまえらの国にいる間はそうだろうよ。

しかしな、虚無に入り込んでいっちまえば、もうそうじゃなくなるんだぜ。もうおまえという見分けはつかなくなるのよ。別の世界にいるんだからな。そこじゃ、今のおまえらとは似ても似つかぬものになる。


つまりな、幻想(イリュージョン)になったり目くらましになったりして人間世界に入り込むんだ。虚無に飛び込んでったこの化け物の町の連中があっちで何になるか、あててみな、ぼうず。」

「わからない。」アトレーユは口ごもった。

「連中はな、人間の頭の中の妄想になるんだ。ほんとは怖れる必要なんかなんにもないのに、ふあんがっていろんな思いを持つようにさせたり、自分自身をだめにしちまうものなのに、まさにそれを欲しがる欲望を持たせたり、実のところ絶望する理由なんかないのに絶望だと思い込ませたりするんだ。」


「われわれみんな、そうなるのだろうか?」アトレーユはぞっとしてたずねた。


「そういうわけでもねえな。」グモルクは答えた。「妄想にも目くらましにもいろんなのがあらあな。こっちでおまえらがどうかによって、あっちでも変わって来る。

きれいなものはきれいな虚偽に、みにくいものはみにくい虚偽に、ばかなものはばかな、賢いものは賢い虚偽になるってことよ。」」



「「まあそれも驚くにはあたらんだろう。おまえら自身があっちで、ファンタージエンなんてものはないと人間に思い込ませることに利用されてるんだからな。」

ファンタージエンがないだって?」アトレーユはあっけにとられてきき返した。

「そうとも、ぼうず。」グモルクは答えた。「そこが一番肝心なところだぜ。考えてもみなよ。ファンタージエンなんてないと思ってるからこそ、おまえらを訪ねようって気もおこさないわけよ。


何もかも、これ一つにかかってんだな。だってよ、おまえらのほんとうの姿を知らないから、あいつらいいようにされているんだ。」
「いいようにって_何を?」
「なんでも意のままだ。やつら、支配されてるんだよ。人間どもを支配するのに虚偽くらい強いものはないぜ。人間てのはな、ぼうず、頭に描く考えで生きてるんだからよ。

そしてこれはあやつれるんだな。このあやつる力、これこそものをいう唯一の力よ。だからおれもその力の側について、それにあずかろうと思って、働いてきたんだ_おまえらとはまた別のやりかたでだがな。」(略)



「おまえだって虚無にとびこむ順番がくりゃ、あやつる力の召使になるんだ。意志もない、見分けもつかない一召使にだ。そして何か役にたつことをするんだぜ。ひょっとしたら、人間にいりもしないものを買わせる役にたつかもしれん。

それとも人間が知らないものを憎んだり、盲目的に信じ込んだり、救いであるはずのものを疑ったりするのに役に立つかもしれん。

なあ、ちび、おまえたちファンタージエンの生きものが、人間世界では大きなことを起こすのに使われてるんだ、戦争をおっぱじめたり、世界帝国をつくったり…」
グモルクは半分閉じた目で少年をしばらくねめまわしたのち、つけ加えた。


「そのうえあっちにゃ、頭の弱い連中がわんさといてよ_もちろんじぶんじゃたいそう利口で、真理に仕えているんだと思い込んでるんだがな_その連中ときたら、


子どもの頭からファンタージエンをすっかりたたきだしちまうよりほか、することがないみたいなんだ。ひょっとすると、おまえなんかがちょうどそういう連中の役にたつかもしれんな。」

アトレーユは頭をたれて立ち尽くしていた。
幼ごころの君に新しい名をさしあげようとファンタージエンにやってくる人間が一人もいなくなってしまたわけ、二度とふたたびやってこないわけが、これでわかった。

ファンタージエンに虚無が広がれば広がるほど、それだけ人間世界に虚偽が氾濫し、そしてほかならぬそのせいで、せめて一人でも人の子がきてくれはしないかという望みが、刻一刻うすらいでえゆくのだ。

これはもう悪魔の環だった。」


〇ここは、河合隼雄氏が言っていた、神話や物語の大切さと同じことを言ってるのだと思いました。


「そしてもう一人、そのことがわかったものがいた。バスチアン・バルタザール・ブックスだった。ファンタージエンばかりでなく、この人間世界も病んでいることが、今やはっきりわかった。この二つは結びついているのだ。(略)


生きるということがこんなに灰色で面白味がなく、神秘なことも驚くこともないのが、これまでどうしても納得できなかった。みんなは、二言目には、これが人生さといいはるけれども。」


〇 思ったよりも長くなりそうです。あと一~二回になりそうです。