「人事権行使で異常事態
放送法施行規則で決められた、経営委員会への事前打診を行なわず、当日説明して同意を得ようとした籾井会長に経営委員が反発したのである。
さらに二〇一四年四月以降、籾井会長に解任された理事の訴えが経営委員会で開陳された。なかでも、久保田啓一技師長・理事の退任の挨拶は、籾井体制でのNHKの異常さを表している。二〇一四年四月二二日の経営委員会議事録から抜粋する。
私は4月24日で退任いたしますが、任期を2日後に控えた本日、後任となる次の理事の任命の同意が議決されました。2年という期間でしたけれどもお世話になりました。
ただ、後任と業務の引継ぎを行う時間も十分にない状態で退任するという異常な事態であると私は受け止めております。1月から続く異常事態はいまだに収束しておりません。
職場には少しずつ不安感、不信感あるいはひそひそ話といった負の雰囲気が漂い始めています。現場は公共放送を担うことへの誇りと責任感を何とか維持しようと懸命の努力を続けていますが、限界に近づきつつあります。
一刻も早い事態の収拾が必要です。公共放送への視聴者からの信頼を取り戻すためにも、一刻も早い事態の収拾が必要です。経営委員会からは、これまで、執行部が一丸となって事態の収拾にあたるように言われてきました。本日、私からは、経営委員会こそが責任をもって事態の収拾に当たってほしいと申し上げたいと思います。改めまして、2年間ありがとうございました。
ここで久保田氏が「経営委員会こそが責任を持って事態の収拾に当たってほしい」と言っているのは、会長を罷免できるのは経営委員会だという事実を含意しているように、私には感じられる。
放送法は「職務の執行の任に堪えないと認める時」「適しない非行」があるとき、経営委員会は会長を罷免できるとしている(第五五条)。
また、二〇一六年二月一七日付で専務理事を退任した塚田祐之氏も、同月九日の経営委員会で「NHKは現場の力で何とか役割を果たしてきたが、そろそろ限界に近づいている」として、会長の任命権を持つ経営委員会に「これからのNHKのあるべき姿と体制をぜひ考えていただきたい」と訴えた(朝日新聞、二〇一六年二月二七日朝刊)。」