読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

ホモ・デウス(下)(第9章 知能と意識の大いなる分離)

「八七パーセントの確率

 

この章の冒頭で、自由主義に対する実際的な脅威をいくつか挙げた。その第一は、人間が軍事的にも経済的にも無用になるというものだ。もちろん、これは予言ではなく、ただの可能性にすぎない。(略)

 

 

 

自由主義が直面する第二の脅威は、経済と政治の制度は将来も依然として人間を必要とするにせよ、個人は必要としないというものだ。人間は作曲をし、物理学を教え、お金を投資し続けるだろうが、経済と政治の制度は、人間自身よりも人間たちのことをよく理解し、重要な決定のほとんどを、人間のために下すだろう。

 

 

それによって経済と政治の制度は個人から権威と自由を奪う。個人主義に対する自由主義の新人は、以前に論じた三つの重要な前提に基づいている。

 

1 私は分割不能の個人である。(略)だが、もし努力してこれらの外殻を剥ぎ取れば、自分の奥深くに単一の内なる声を見つけることができ、それが私の本物の自己だ。

 

2 私の本物の自己は完全に自由である。

 

3 これら二つの前提から、私は自分自身に関して他人には発見しえないことを知りうる。(略)私が本当は何者なのかや、どう感じるかや、何を望んでいるかを、他人は誰一人知り得ないからだ。だからこそ、有権者がいちばんよく知っており、顧客はつねに正しく、美は見る人の目の中にあるのだ。

 

 

 

ところが、生命科学はこれら三つの前提すべてに異議を唱える。生命科学によれば、以下のようになる。

 

1 生き物はアルゴリズムであり、人間は分割不能の個人ではなく、分割可能な存在である。つまり、人間は多くの異なるアルゴリズムの集合で、単一の内なる声や単一の自己などというものはない。

 

2 人間を構成しているアルゴリズムはみな、自由ではない。それらは遺伝子と環境圧によって形作られ、決定論的に、あるいはランダムに決定を下すが、自由に決定を下すことはない。

 

 

3 したがって、外部のアルゴリズムは理論上、私が自分を知り得るよりもはるかによく私を知り得る。アルゴリズムは、私の身体と脳を構成するシステムの一つ一つをモニターしていれば、私が何者なのかや、どう感じているかや、何を望んでいるかを正確に知り得る。

 

 

そのようなアルゴリズムは、いったん開発されれば、有権者や顧客や見る人に取って代わることができる。そうすれば、そのアルゴリズムが一番よく知っており、そのアルゴリズムが常に正しく、美はそのアルゴリズムの計算の中にあることになる。

 

 

それでも一九世紀と二〇世紀の間は、個人主義を信じるのは実際上はとても理に適っていた。現に私を効果的にモニターできる外部のアルゴリズムはなかったからだ。国家も市場もまさにそうしたかったのだろうが、それに必要なテクノロジーを欠いていた。(略)

 

 

医学に関する限り、私たちはすでにそうしている。私たちは病院ではもう個人ではない。あなたが生きている間に、自分の身体と健康についての重大な決定の多くは、IBMのワトソンのようなコンピューターアルゴリズムが下すようになる可能性が非常に高い。(略)

 

 

深刻な病気にかかっていなくても、身につけられるセンサーとコンピューターを使って自分の健康状態と活動をモニターし始めた人は多い。スマートフォンや腕時計から、アームバンドや下着まで、さまざまなものに組み込まれたそれらの装置は、血圧や心拍数など、多様なバイオメトリックデータを記録する。(略)

 

 

より深遠な次元では、遺伝子技術が日常生活に組み込まれ、人々が自分のDNAとしだいに緊密な関係を育むにつれ、単一の自己というものはなおいっそう曖昧になり、本物の内なる声は途絶え、やかましい遺伝子の群れが残るだけかもしれない。だから、厄介なジレンマや意思決定に直面したとき、人は自分の内なる声を探すのをやめ、その代わりに、内なる遺伝子の議会の意見を聞くかも知れない。(略)

 

 

 

人類の健康を増進したいという同様の願望のために、私たちの大半は、自分の私的な空間を守っている防壁を進んで取り払い、国家の官僚制と多国籍企業に自分の内奥へのアクセスを許すだろう。たとえばグーグルが私たちの電子メールを読んだり、活動を追ったりするのを許せば、グーグルは従来の保険医療サービスが気づく前に、感染症が流行しかけていることを私たちに警告できる。(略)

 

 

これは架空の発想ではない。二〇〇八年、グーグルは現に「Google Flu Trends(グーグル・インフルトレンド)」を更改し、グーグルの検索をモニターしてインフルエンザの大流行を追跡している。(略)

 

 

とはいえ、グーグルのような企業は、身に着けられるものよりもずっと深くまで違っている。DNA検査の市場は現在急激に成長している。この市場を牽引する企業の一つが23andMeで、グーグルの共同設立者セルゲイ・ブリンの前妻アン・ウォジツキらが創業した私企業だ。(略)

 

 

もし私たちが全てを結び付け、自分たちのバイオメトリック機器や、DNAスキャンの結果や、医療記録への自由なアクセスを、グーグルやその競争相手に許せば、全知の医療保険サービスが手に入り、それが感染症と戦ってくれるだけではなく、癌や心臓発作やアルツハイマー病からも守ってくれる。

 

 

とはいえ、そのようなデータベースを自由に仕えたら、グーグルははるかに多くのことができるだろう。(略)今日私たちを支配している物語る自己と違い、グーグルはでっち上げた物語に基づいて決定を下すことはないし、認知の近道(ショートカット)やピーク・エンドの法則に欺かれることもない。

 

 

 

グーグルは本当に、私たちの一挙手一投足をすべて覚えているだろう。私たちの多くは、自分の意思決定の過程をそのようなシステムに喜んで委ねるのではないか。(略)

 

 

 

すると、グーグルは答える。「そうですね。あなたのことは生まれた日からずっと知っています。あなたのメールは全部読んできたし、電話もすべて録音してきたし、お気に入りの映画も、DNAも、心臓のバイオメトリックの経歴も全部しっています。(略)

 

 

お望みなら、ジョンあるいはポールとしたデートのどれについても、心拍数と血圧と血糖値を秒単位で示すグラフをお見せすることもできます。(略)

 

 

これらいっさいの情報と、私の優秀なアルゴリズムと、何百万もの人間関係に関する数十年分の統計に基づくと、ジョンを選ぶことをお勧めします。長期的には、彼の方が、より満足できる確率が八七パーセントありますから。

 

 

それどころか、私はあなたを本当によく知っているので、この答えが気に入ってもらえないことも承知しています。ポールはジョンよりずっとハンサムですし、あなたは外見をあまりに重視するので、私に「ポール」と言ってもらいたいと、こっそり思っていましたね。(略)」

 

 

自由主義は物語る自己を神聖視し、投票所やスーパーマーケットや結婚市場でその自己が投票するのを許す。これは何世紀もの間、理に適っていた。物語る自己はとあらゆる種類の虚構や幻想を信じていたとはいえ、この自己よりも本人のことを良く知っているシステムは他になかったからであ。ところが、物語る自己以上に本人のことを本当によく知るシステムがいったん手に入れば、物語る自己の意権限を委ねたままにするのは無謀ということになる。(略)

 

 

ヨーロッパの帝国主義の全盛期には、征服者や商人は、色のついたガラス玉と引き換えに、島や国をまるごと手に入れた。二一世紀には、おそらく個人データこそが、人間が依然として提供できる最も貴重な資源であり、私たちはそれを電子メールのサービスや面白おかしい猫の動画と引き換えに、巨大なテクノロジー企業に差し出しているのだ。」

 

 

〇 再度下巻を借りたので、続きをメモしていきます。

 

ホモ・デウス 下巻 第9章 知能と意識の大いなる分離

  巫女から君主へ