読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

苦海浄土

「頬のゆたかな唇のあどけない、けむるようなまなざしをした漁師の娘の青春をわたくしはおもいみる。」


「おとろしか。おもいだそうごたなか。人間じゃなかごたる死に方したばい、さつきは。(略)

これが自分が産んだ娘じゃろかと思うようになりました。犬か猫の死にぎわのごたった。(略)

ああもう死んで、いま三人とも地獄におっとじゃろかいねえ、とおもいよりました。(略)

コレラのときのごたる騒動じゃったもん。買物もでけん、水ももらいにゆけんとですけん。店に行ってもおとろしさに店の人は銭ば自分の手で取んなはらん。(略)

七生まで忘れんばい。水ばもらえんじゃった恨みは。村はずしでござすけん。」



「さつきがおれば親方じゃが、今は九平が親方ですもん。あれは自分の心で決めますと、親方ですけん。誰が来ても行きゃしまっせん。治しきる先生のおらっせばゆくちいいますもね」


〇涙ばかり出ます。


「現病歴・三十一年七月十三日、両側の第二、三、四指にしびれ感を自覚し、十五日には口唇がしびれ耳が遠くなった。

十八日には草履がうまくはけず歩行が失調性となった。またその頃から言語障碍が現れ、手指震顫を見、時にChorea様運動が激しく 更にBallismus様運動が加わり 時に犬吠様の叫声を発して全くの狂躁状態となった。


睡眠薬を投与すると就眠する様であるが、四肢の不随意運動は停止しない。上記の症状が二十六日頃まで続いたが食物を摂取しないために 全身の衰弱が著名となり、


不随意運動はかえって幾分緩徐となって同月三十日当科に入院した。なお発病以来発熱は見られなかったが、二十六日より三十八度台の熱が続いている。


入院時所見・骨格は小にして栄養甚だしく衰え、意識は全く消失している。顔貌は老人様、約一分間の間隔をとって顔面を苦悶状に強直させ口を大きく開いて犬吠様の叫声を発するが言葉とはならない。


その際同時に四肢のChorea様Ballismus様運動を伴い躯幹を硬直させ後弓反張が認められる。体温38、脈拍数は105で頻にして小、緊張は不良、瞳孔は縮小し対光反射は遅鈍である。結膜は貧血、黄疸なく_(略)


入院経過・入院翌日より鼻腔栄養を開始、三十一日は入院当日同様の不随意運動を続けていたが、九月一日になると運動が鎮まり筋緊張はかえって減弱し四肢に触れても反応を示さなくなった。


体温39、脈拍数122、呼吸数33で一般状態は悪化した。翌二日午前二時頃再び不随意運動が始まり狂躁状態となって叫声を発しこれを繰り返すに至ったが、フェルバビタールの注射により午前十時頃より鎮まり睡眠に入った。午後十時に呼吸数56、脈拍数120、血圧70/60/mmHgとなり翌日午前3時35分死亡した。」