読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

シーラという子 _虐待されたある少女の物語_

「私はその日の予定を彼女に説明し、昨日と同じようにみんながやることにはすべて仲間入りしてもらうこと、そして算数の時間には算数の問題を少しやってもらうといった。
 
 
それから水曜日の午後にはいつも料理をすることになっているので、彼女にもチョコレート・バナナを作るのを手伝ってもらいたいといった。
 
 
この二つのことをやってもらうから、と。」
 
 
 
「シーラは動かなかった。私が近づいて行ったときにもし彼女が飛び出そうとしたら、つかまえられるようにとアントンが注意深く動き始めた。
 
 
そのとたんに彼女は私たちの意向を理解し、パニックに陥った。この子は追いかけられることを異常に恐れているようだ。悲鳴をあげながら、シーラは飛び出し、他の子供たちにぶつかり、子どもたちの勉強道具をひっくり返して逃げ回った。
 
 
だが、アントンがすぐそばにいたので、すぐに彼女を捕まえてしまった。私がすぐそばにいって、彼女を引き受けた。
 
「シーラ。あなたのそばにいったからといって、私たち、何もしないわよ。それがわからないの?」もがくシーラをしっかりと抱きしめて、恐怖に喘いで荒い息をしている彼女の息遣いを聞きながら、私は彼女と一緒に座った。「おちつくのよ」」
 
 
「私は他の子供たちのところにもどり、タイラーの腫れている額を撫で、一生懸命自分の勉強をしていた子どもたちを褒めた。」
 
 
 
「「座りなさいといったのよ、シーラ。算数をする気になるまでは立ち上がってはだめよ」突然、驚くべきことにすべてが静かになり、シーラが私を睨みつけた。
 
 
これほどのあからさまに憎悪を見せつけられて、自分がしていることにわずかながら残っていた自信が萎えていった。
 
 
「その椅子に座りなさい、シーラ」
彼女は座った。私が見えるように椅子の向きを変えはしたが、それでも座ることは座った。それからまた叫び始めた。私は深いため息をついた。」
 
 
「この大騒ぎはすでに一時間半も続いていた。足を踏み鳴らし、椅子から飛び上がり、椅子をゆする。洋服をひっぱり、拳を振り回す。それでも一応椅子には座り続けていた。」
 
 
 
「勉強時間も終りに近づいた頃、マックスと一緒に勉強している私の方に、何かふわっと軽いものが触れたような気がした。振り返るとシーラが後ろに立っていた。不安の為に肌がまだらになり、目に警戒の色を浮かべて顔をしかめている。
 
「算数をする気になったの?」
シーラは唇を一瞬すぼめてから、ゆっくりとうなずいた。」
 
 
 
「彼女が実際に答えを知っていたのか、それともやりながら数えていたのかはわからなかった。だが、彼女が足算の仕組みを理解していることは明らかだった。
 
彼女が用紙を破いてしまうことが分かっていたので、紙と鉛筆を出すのは気がすすまなかった。もろいが、ようやく勝ち取った私たちの新しい関係を壊すようなことはしたくなかったのだ。」
 
 
「「まあ、あなたとてもお利口さんじゃない。じゃあ、これはどうかしら。今度はむずかしいわよ。十二引く七はいくつかしら?」
 
シーラは私の顔を見上げた。その時彼女の目にごくわずかな微笑がほの見えた。もっとも唇にまでは笑みは浮かばなかったが。(略)
 
 
この小悪魔、と私は思った。この何年間どこにいたにせよ、また何をやっていたにせよ、この子はちゃんと学んでもいたのだ。シーラの能力は同じ年齢の子供の平均を上回っていた。」
 
 
 
「毎週水曜日には何か食べ物を作ることになっていたが、それにはいくつかの理由があった。かなり自分をコントロールできる子供たちにとっては、これは算数や読み方のいい練習になった。
 
 
また、どんな子にとっても、料理をすることは社会活動をしたり、みんなと何かを分かち合ったり、おしゃべりをしたり、共同作業をする絶好の機会となった。それよりなにより、料理は楽しかった。」
 
 
「他のみんなが終わってからウィットニーが彼女をチョコレート・ソースのところに誘った。一度始めると、シーラはすっかり夢中になり、べたべたのバナナに四種類のトッピングすべてをつけようとしはじめた。
 
私はテーブルの離れた場所からそれを見ていた。シーラはまったくしゃべらなかったが、トッピングの中を転がすたびにあらたにチョコレートにバナナを浸して、トッピングをすべてバナナにくっつけようというしっかりした考えがあることがはっきりわかった。
 
一人、また一人と他の子供たちは動きを止め、シーラが自分の考えを実験していくのを見守り出した。みんなの好奇心がふくらむにつれて、声がしなくなっていった。最後のトッピングのお皿の中で巨大なべたべたする塊りを転がしてから、シーラは注意深くそれを持ち上げた。
 
 
顔を上げた彼女の目が私の目と合った。彼女の顔にゆっくりと笑みが広がり、ついには顔いっぱいの笑顔になった。下の前歯が抜けているのが見えた。」