読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

シーラという子 _虐待されたある少女の物語_

 

 

 

「「トリイ」
「なあに?」
「あたしからぜったい離れて行かない?」


私は彼女の前髪を撫であげた。「そうね、いつかはそういう日がくるわね。学年が終わって、あなたが別のクラスに移り、別の先生に習うようになるときには。でもそれまでは離れないわ。それにそんなことはまだ先のことだから」


シーラは急に立ち上がった。「トリイがあたしの先生だよ。他の先生なんていやだ」
「いまは私があなたの先生よ。でもいつかは終わりになるときがくるの」
シーラは首を横に振った。暗い目になっていた。


「ここがあたしの教室。あたし、いつまでもずっとここにいる」
「でも、ここにはそんな長い間はいられないのよ。その時がくれば、あなたもその気になるわ」
「いやだ。トリイはあたしを飼いならしたんだから、あたしにシェキニンがあるんだよ。あたしからはなれていったらいけないんだよ。だってずっとあたしにシェキニンがあるんだから。本にもちゃんとそう書いてあるじゃない。


それもトリイがやったことなんだ。だからあたしが飼いならされてしまったのは、トリイのせいなんだよ」」

〇ここが、一番心に残りました。
もし、自分がシーラだったら、誰がシーラでも、絶対にこうなると思います。
まだ、この時点で3カ月くらいしか経っていないんですから。

このトリイさんは、なぜこんなにも難しいことを引き受けてその問題と対決できるんだろう、と思います。

この時点でも、ウソはつかない。あいまいにしない。
すごいなぁと思います。


「「ねえ、シーラ」私は彼女を膝に抱き上げた。「そのことは心配しなくていいの」
「だけど、トリイあたしを置いていっちゃうんでしょ」シーラは非難するようにいうと、私を押しのけようとした。

「おかあちゃんがそうしたみたいに。ジミーも、他の人もみんなそうだ。

おとうちゃんだって、もしそうやっても刑務所に入れられるんじゃなかったら、そうするって。そういってた。トリイも、他のみんなと同じじゃないか。あたしを置いてっちゃうんだ。

あたしを飼いならしたくせに。それもあたしからそうしてくれって頼んだわけじゃないのに。」

「そうじゃないのよ、シーラ。私はあなたから離れて行ったりしないわ。私はずっとここにいるわよ。学年が終わって、いろいろなことが変わっても、私はあなたから離れていったりしないわ。

ほら、お話の中にあったじゃない。王子さまはキツネを飼いならして、そしていってしまうけど、ほんとうは王子さまはいつもキツネと一緒にいるの。だって、キツネは麦ばたけを見るたびに、王子さまのことを思うわけだから。

キツネはどれほど王子さまが自分のことを好きだったかを覚えているのよ。私たちもそういうふうになるわ。私たちはいつまでもお互いのことが好きでいられるのよ。

そうなればいってしまうのも、そんなに辛いことではなくなるわ。だって、自分をく愛してくれている人のことを思い出すたびに、その愛情を少し感じることができるわけだから」

「そんなことない。ただいなくてさみしいと思うだけだよ」
私は片手をのばして彼女を再びそばに引き寄せた。シーラはどうしてもわからないようだった。

「そうね。このことはいま考えるには、ちょっと難しすぎるかもしれないわね。あなたには分かれる心の準備ができていないし、私のほうでもあなたから離れたくないし。でもいつかは心の準備ができるわ。そうすれば、もっと楽になるでしょう」

「ううん、ならない。心の準備なんかぜったいできない」
私は彼女をぎゅっと抱きしめ、腕の中でゆすった。これはいまの彼女にとってはあまりにおそろしい問題だった。

私はこの問題をどう扱っていいのかわからなかった。州立病院に空きができたときになるか、あるいは六月の学年末になるかはわからないが、いずれにしても彼女と別れなければならないときはやってくるのだ。

様々な事情から、私のクラスが来年度も存続するかどうかについては既に疑問を持っていた。

学年末以降も私が彼女を受け持てますようにと願ったところで、どうしようもなかった。そんなわけで別れの日がやがてやってくるというのに、四カ月という短い時間の間に彼女がいまとはちがう気持ちになれるかどうか、私にはわからなかった。


シーラは私にゆすられるままになっていた。彼女はじっと私の顔をみつめて、いった。「泣く?」
「いつ?」
「あたしと別れるとき」
「キツネがいったことを覚えてる?”飼いならされたのなら、泣くことは覚悟しなきゃいけない”って。キツネのいうとおりよ。少しは泣くわ。だれかがいってしまうたびに、少し泣くの。愛ってときには痛いものなのよ。泣いてしまうこともあるわ」

あたし、ジミーやおかあちゃんのことを思って泣くけど、でも、おかあちゃんはあたしのことなんかちっとも愛してないよ」

「そのことについてはわからないわ。私があなたと会う前のことだし、私はあなたのおかあさんに会ったことがないから。でも、おかあさんがあなたのことをまったく愛してないなんて考えられないわ。自分の子供を愛さないなんて、ふつうできないことだもの」

「だって、あたしをにハイウェイに置き去りにしたんだよ。愛してたら、自分の子供にそんなことできないはずだよ。おとうちゃんがそういってたよ」」


〇問題を分類して、変えられることと変えられないことを見極めて、問題解決のためにはどうすればよいのか考えて、その考えに従って、自分の感情をコントロールし、意志的に行動する。

息子が不登校になった時もさんざん思い知ったことですけど、それが本当に難しい。でも、それをきっちりやってるところがすごいと思います。

愛するって、感情が無ければできないけれど、感情だけでも出来ない。意志的に行動できる人しか、人も動物も愛せないと思います。

 

 

「私と子どもたちとの間でいい合いになって、どちらか一人、あるいは両方ともが怒ってしまったときなど、子どもは日記がその気持ちのはけ口になることを覚えて行った。

そんなわけで、子どもたちはほとんど毎日日記を書き綴っていた。」

 

「それでも私が二枚目の紙を渡すと、もう一度とりくんだ。筆記問題にとりくむシーラがまだとても自信なげだったので、私はまちがっていてもいっさい指摘しなかった。」

 

「彼女には、学校の問題用紙の山で人間の価値を量ることなどできないのだ、ということを知ってもらう必要があった。」


「子供たちは十一月にも、私がワークショップに出席しなければならなかったときに代用の教員と一緒に過ごしたことがあった。その時は一日だけだったし、前もって子供たちに心の準備をさせておいたので、すべてうまくいった。


子どもたちがこのようにして自立する練習をすることはとても大事な事だと私は考えていた。


私と一緒にすごしてきたこの何か月かで、子どもたちがどれだけ進歩したとしても、彼らが私のいるところで頼りきって生活しているだけでは何の役にも立たない。私は私よりずっと優秀な教師たちがこの問題のために失敗するのを何度も見てきた。


そして私もまたこの問題でつまづくのではないかという思いにとらわれていた。私が心配していたのは、同じ分野の教育を担っている多くの教師に比べて、私が子供たちとより親しい、より強固な関係を持とうとしていたところにあった。(略)


とにかくあらゆる機会を利用して子供たちに私がいなくてもやっていけるようにと考えていた。」


「「もうぜったい、トリイのことなんか好きにならない。トリイがやれっていうことを、もうぜったいやらない。すっごい意地悪だ。あたしがトリイを好きになるようにあたしのこと飼いならしておいて、それからいっちゃうなんて。

そんなことしちゃいけないんだよ。おかあちゃんがしたことと同じじゃない。そんなこと小さい子供にしちゃいけないんだよ。
小さい子を置いて行っちゃったら牢屋に入れられるんだよ。おとうちゃんがそういってるよ」

「シーラ、そういうこととは違うのよ」


「トリイのいうことなんか聞かない。もうトリイのいうことなんか、ぜったい聞かないから。あたしはトリイのこと好きだったのに、トリイはあたしに意地悪をした。

あたしを置いて行っちゃうんだ。そんなことしないっていったくせに。自分が飼いならした子供にそんなことするなんて、すっごく悪いことなんだからね。そんなことしらなかったの?」」


「私の心の大部分を占めていたのは、他のことはなんでもわからせることができたのに、私が彼女を見捨てるわけではないということを説得できないための欲求不満だった。」

 

「大会は二月でも気候の温暖な西海岸の州で開かれた。チャドが一緒に来たので、私たちはほとんどの時間を波打ち際を歩きながら海岸で過ごした。すばらしい気分転換だった。」

 

「私の心は重く沈み込んだ。私の中で、気持ちの汚水だめのようになっているところが、ゴボゴボとみじめな音をたてた。私がいない間、彼女はちゃんとしていてくれると、私はほんとうに信じていたのだ。

自分がそんなにひどく判断をあやまっていたのかと思うと胸が痛んだ。自分が個人的に侮辱されたような気がした。彼女を信じていたのに。彼女がちゃんと行動してくれるとあてにしていたのに、シーラは私を裏切ったのだ。」


「彼女の冷たい、よそよそしい目を見ているうちに、怒りがこみあげてきた。突然たまらなくなって、私は彼女の肩をつかみ、乱暴にゆすった。「いいなさいよ!いいなさいったら!」だが、彼女は心を閉ざし、歯をむき出した。

自制心をなくしたことにぞっとして、私は彼女の肩から手を離した。ああ、この仕事は私には荷が重すぎるようになってきている。」

 

「彼女は明らかに自制心を失っていた。床に身を投げ出すと、今度は頭をどんどんと床に打ち付け始めた。アントンがとんできて、この自損行動をやめさせた。

シーラはいままでこんなことをしたことは一度もなかった。」


「昼休みの頃には、私は完全にうちひしがれていた。自分でも教師として欠けていると自覚しているところをさらけ出すはめになったために、シーラに対して怒っているのだということに気づき始めていた。」


「このことに気づいて、私の気持ちはさらに落ち込んだ。なんてくだらない、自分勝手な嫌な人間なんだろう。自己嫌悪に陥り、世界中を憎みたくなった。最悪の気分で、現状をどう回復していいのか考えることも出来なかった。」


「そもそもだからこそ彼女はこの教室に来たのではなかったか。それでは私はどうだというのだ?私がここにいるのも、その理由からではなかったのか?

今日は彼女が私を信用してもいいのだということを確認するすばらしい日にすべきだったのに。私は約束どおり戻ってきたのだから。それなのに、私はあの子に怒鳴ってしまった。

そしてあの子が楽しみにしていたものをとりあげてしまったのだ。そんなことをされるなんてあの子は思ってもいなかったのに。なんで教職になどついてしまったのだろうか?」


「そして悲しいことにこう悟ったのだった。私たちが自分以外の人間がどんなふうであるかをほんとうに理解することは決してないのだ、ということを。

そして人間はそれぞれちがうのに、浅はかにも自分は何でも知っていると思いこみ、その真実を受け入れることができないということも。特に相手が子供の場合はそうだ。

ほんとうのところは決してわからないのだ。


シーラは立ったまま、オーバーオールの肩紐をいじくっていた。「もう一度あの本を読んでくれる?」
「どの本?」
「キツネを飼いならした男の子のお話」
私はにっこりした。「いいわよ。読みましょう」」


〇「私たちが自分以外の人間をほんとうに理解することはない」という言葉を見て、
つい最近、これと同じ言葉を読んだ記憶がある、と思いました。

あの、苦海浄土の最後に、解説の人が書いていた言葉でした。

石牟礼道子さんは、子供の頃、認知症?のおばあさんの面倒をみる役割を与えられていた。その経験の中で、人間が他の人間をほんとうに理解することの困難さを身をもって、知っていた。

その諦念のようなものがあったので、この苦海浄土の中に登場する人々を描くことが出来たのではないか」というような言葉でした。(本を返却してしまい、手元にないので、正確な言葉をメモすることが出来ません。いつか、またこの部分を訂正することがあるかもしれません)

この「本当に理解することができない」という気持ちが、理解に一番近いところにいる人の口から出る、というところに、このトリイさんと石牟礼さんの共通項がある、と思いました。

 

「冬の厳しさにもかかわらず、スイセンの花のようにシーラは花開いていった。日ごとに彼女はどんどん進歩していった。彼女のかかえる状況が許す範囲内ではあるが、シーラはいまではいつも清潔だった。

毎朝はずむようにやってくると、顔を洗い歯をみがいた。自分がどう見えるかをとても気にし、鏡に映った自分の姿を丹念にチェックした。

私たちは新しいヘアースタイルをいろいろ試してみた。」

 


「概してシーラはクラスのみんなに好感をもたれているようなので、私はうれしかった。
学習面では、まったく問題なかった。シーラは私が与える問題ならほとんどなんでも喜んでやった。」

 

「不思議なことに、私の二日間の留守をめぐっての不和は、シーラの心の安定にはマイナスに働かなかったようだった。私が帰ってからの数日間、シーラはまた私に付きまとっていたが、それもすぐにしなくなった。(略)

彼女にはあの出来事のことを何度も何度もくりかえし口にする必要があったようだ。私が彼女のそばから去り、そして私はもどってきた。彼女は怒り、破壊的な行動にでた。私も怒り、癇癪をおこした。そして私は彼女に自分がまちがっていたといい、悪かったといった。そのようなドラマの一こま一こまを、彼女は何度も何度も話したがった。


そのつど彼女がどんな気持ちだったのか、なんであの日吐いてしまったのか、どんなに怖かったかを口にしながら。(略)


どうやら私たちがお互いに腹を立て、そしてそれを乗り越えたことも彼女の中では重要な位置を占めているようだった。おそらく、最悪の状態の私を見たことで、シーラは安心したのかもしれない。

彼女に対して怒っている時の私がどうなるのかを知ったからこそ、いま彼女は私を信頼できるんぼだ。それが何であったにせよ、シーラは自分お問題を言葉で解決することを学んだのだった。だからもう身体的な接触を必要としないのだ。言葉で充分なのだった。


不思議なことに、私が留守にしてまた返って来たときの例の事件のあと、彼女の破壊的な行動はほとんどでなくなった。」


「シーラの心をいまも大きく占めているのは、捨てられたという意識だった。(略)

私にはこのことが彼女の失敗を極度に恐れる気持ちと直接結びついているような気がしてならなかった。」


「彼女には喜ぶという才能もものすごくあった。人生全体が混乱に満ちた悲劇であることが多いこういう子供たち相手の仕事をしていると、人間というのは本来、喜ぶ生き物なのだということを日々確信させられる。

シーラの気分はゆれが激しく、また今までの生活のせいで荒廃してしまった気持ちから管園医解放されるということはなかった。だが、だからといって彼女が幸せから遠いということは決してなかった。


ちょっとしたことで彼女の目はきらりと輝き、いまでは彼女のうれしそうな笑い声を聞かない日は一日もなかった。」


「その花をやさしく持って、山吹色のラッパのところを撫でながらシーラは微笑んだ。」

 

「ウィットニーは両手で頭を支えて、テーブルをじっと見ていた。「私いつもろくなことをしない。いつも自分のやったことですべてをめちゃくちゃにしてしまうんだわ」

「いまだからそういうふうに思えるだけよ。でもあなたにも本当はそうじゃないってわかっているはずよ」
「お母さんに殺されるわ」」

 

「「ちょっと話していい、トリイ?」
「ええ」
それでもウィットニーはかたくなに私の顔を見ようとはしなかった。「ここはね、私が世界中で一番好きな場所なの。みんなそのことで私をからかうわ。いつも。みんなこういうの。なんであなたはいつも頭のいかれた子たちと一緒にいたがるの?って。

私も頭がおかしいと思われているのよ。それもいい意味でクレージーだっていうんじゃなくて、ほんとうに精神がおかしいと思われているのよ。そうじゃなかったら、なんでこんな場所にそんなにいたがるのかって」


「人からそういわれたこと、ある?」初めてウィットニーは私を見た。
「直接にはないわ。でもかなりの数の人が心ではそう思っていると思う」
「あなたはどうしてここにいるの?」

私は微笑んだ。「それは私が正直な人間関係が好きだからなんだと思うわ。いままでのところ、そういう意味で正直だと思える人は、子どもたちか頭がおかしいといわれている人たちだけだったわ。だからこの場所は私にとってはとても自然な所に思えるの」

ウィットニーはうなずいた。「そうね。私もそこが好きなの_みんな自分が感じた通りの気持ちを表に出すところが。そうすれば少なくとも誰かが私のことを嫌ってたら、そうだとわかるでしょ」
彼女は弱弱しく微笑んだ。「おかしいんだけど、私にはあの子たちが、普通の人と比べてそれほど頭がおかしいと思えないことがあるの。つまり…」彼女の声はそのまま立ち消えになってしまった。

私はうなずいた。「ええ、あなたのいいたいこと、よくわかるわ」」

 

「ぼくがどうこうできることじゃないんだよ。あの幼児を火傷させた事件のあと、州はあの子を施設収容する決定をしたんだ。被害者の男の子の両親の気持ちを考えたら、そうする以外他に方法がなかったんだよ」
エド、そんなばかな事ってある?あの子は六歳なのよ。そんなことできるはずがないじゃないの」

「座って、ふだんは決して飲むことのないコーヒーを飲みながら、なんとか涙を流すまいとした。エドの言うとおりだ。私は深くかかわりすぎたのだ。」

「確かに、そのへんを通っていく人々の目には、彼女はどこにでもいる何千人何百人の子供たちと同じようにしか見えないだろう。だが、私にとっては残りの全員よりも彼女だけが大切だった。
私は彼女を愛していた。そんなつもりではなかったはずなのに。それなのに彼女を愛したことで、彼女は私にとって特別のものになってしまった。
いまとなっては私は彼女に”シェキニンがある”のだ。涙が出てきた。」

「私は彼女に微笑みかけた。「シーラ、愛してるわ。このことは忘れないで。もしあなたが一人ぼっちになったり、こわくなったり、何か悪いことがおこったりするような時が来たとしても、私があなたのことを愛しているということだけは忘れないでね。
ほんとうにあなたのことが大好きなんだから。誰かが誰かにしてあげられることって、これくらいしかないのよ。」(略)

だが言わずにいられなかったのだ。自分自身の心の平静の為に、私は自分が最善をつくしていることを彼女に伝えたと思う必要があったのだ。」

「こうしてピリピリした雰囲気で始まった会合だったが、話し合いが進むにつれて変化が見えてきた。
私はシーラが学校で勉強した成果や、教室でのシーラの様子をアントンが撮影したビデオを持ってきていた。
アランは知能テストの結果を報告した。シーラの前の教師は二人とも感銘を受け、そのことを口にした。

またもや私が直情的な行動に出たことで怒っているのではないかと私が恐れていたコリンズ校長までもが、シーラは行動面でたいへん進歩したと発言してくれた。

彼がそう話しているのを聞いていると、思いがけなく校長に対してあふれるような愛情がわいてきた。」

「最終的に父親は私たちに同意した。ついに私たちはこれが”慈善”でも”善行”
でもなければ、へんな裏のある策略でもないことを彼に説得できたのだった。(略)

この父親だって固い殻の下には父親としての本能のようなものを持っているに違いないと信じていた。彼なりのやり方で、彼はシーラを愛し、シーラと同じくらいの同情を必要としていたのだ。」

「廊下に喚声がわきおこり、私たちはお互い抱き合って小躍りした。「勝った!勝った!勝った!」シーラは金切り声を上げて、みんなの足元でぴょんぴょん跳ねた。」

「シーラは私たち二人と手をつないで、真ん中でぶらさがっていた。小さな女の子用のドレスの売り場にいくと、とたんにシーラは照れてしまってどうしてもドレスを見ようとせず、私の脚に顔を押し付けてしまった。」

「「三つとも全部買えたらいいのにと思ってるの?」
シーラは首を横に振った。「トリイがお母さんで、チャドがあたしのお父さんだったらいいのにって思ってるんだ」
私は笑みを浮かべた。」

「私がいままで受けた心理学の授業のすべてが、だめだといえと迫っていた。だが、彼女の目を見ていると、どうしてもそうはいえなかった。」

〇読んでいても辛くなります。私の「自然な感情」に従えば、ここは、何らかの形で、シーラの傍に居続けることを考えてしまうのが普通では?と思うのですが、
このトリイさんは、そうしません。
そして、実際問題として、そんな風に気持ちを込めて関わった子供たちすべてを
自分のプライべートな生活に組み入れていたら、トリイさんは、教師でいられなくなる。
所謂、公私混同しない、ということが必要で、でも、この教師であるということには、愛するということが必須で、気持ちはごちゃごちゃになってしまうだろうな、と思います。