読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

タイガーと呼ばれた子_愛に餓えたある少女の物語

「正直なところ、私にはわからなかった。だからといって、シーラが噓をついていると思ったわけではない。私の知っているかぎりのシーラがやりそうなたくらみを考えても、シーラは今までずっと私には本当のことを言ってきていた。

今になって彼女の潔白を疑う理由などなかった。だが、彼女は生まれついての楽観主義者だった。チャンスが目の前に現れた時に、逃げるという誘惑に彼女が抗することが出来るかどうか、私には何とも言えなかった。」



「「私がほんとうに頼んだら、それがどういうことになるか、あなたわかってるの?」私は言った。
「何のこと?」
「ポイント・システムよ。あなたは点数を稼がなきゃいけなくなるわよ」
大げさに目の前で腕を振って、シーラは後ろ向きにベッドに倒れ込んだ。「もうかんべんしてよ。トリイまで、そんな」



「あなたも協力しないと、シーラ。あなたがするべきことをきちんとしていたら、多分何か月も前にここから出られたはずよ」
「やめてよ。あのばかみたいなゲームをやれっていうの?くだらないあの小さなものを集めろって?何あれ?くだらないゴルフのティーかなにか?あたしがあんなゴルフのティーでだれかにあたしの生活を取り締まらせると思ってるの?」
私は彼女をじっと見つめた。「あなたが私の家に来たいのなら、そうしなきゃ」



「ふんだ。トリイまでこんな風だとは思わなかったよ」怒って顔にしわを寄せて、シーラはまたベッドにひっくり返った。
彼女の中のトラが頭をもたげて来ていた。唐突に、私はシーラに闘志が戻ってきたことに気づいた。うれしくなって、私は彼女をたきつけた。
「ジェインを呼んできましょうよ。何ポイント集めればいいかを決めて、それが達成できればすぐに、私の所で週末を過ごすようにすればいいわ。これでどう?」
「くだらない」
「わかったわ。じゃああなたの好きなようにすれば」
シーラは起き上がって座った。「べつにそういう意味で言ったんじゃないよ。もう。今日は機嫌が悪いんだね。どうしたの?生理なの?」
私は穏やかににっこりした。


シーラは腹を立てて歯をむき出してから、ベッドの端まで這って行き、紙を素早くつかんだ。「わかったよ。じゃあジェインを読んで来て。このくだらないことを片付けちゃおうよ」


その計画をやる気になると、シーラはさっさと点数を稼いでいった。ジェインは仰天していたが、それこそシーラが見たいと思っていた反応だったのではないだろうか。」


「「この前、あたしが自分の人生の部分部分を締め出すことができるって言ったの覚えてる?そういうことは他の誰かの身に起こったことだというふうにしちゃうってこと」
私はうなずいた。


「ここでのこともそうなんだ。そうするつもりはなかったんだけど。(略)
今ここに戻って来てみると、そんな風に感じるの。本当のデジャヴというか。まるで何か前世の自分をたずねている見たいな感じだよ。だって…あたしが行ってしまったあとも、他のみんなはそのままずっとここで今まで通りの生活をしていたとはとても思えないんだ」(略)


「一緒にいる男の人はだれ?」
「ヒューよ。あとで会うことになるわ。今夜私たちを夕食に連れて行ってくれることになっているから」
「ということは、この人と今ファックしてるってことだね?」
「そういう言い方はしたくないけどね」(略)


「ファックっていうのは違うわ。愛し合うというならそうだけど。この二つは違うのよ」
シーラは肩をすくめた。「あたしにとっては全部ファックってことだよ」」



「角を回って居間に入ると、シーラが電話を手にしているのが見えた。
「誰に電話をしてるの?」わたしはびっくりしてきいた。(略)



私は疑わしそうな目で彼女をっ見ていた。(略)
この電話の一件で私は少し不安になった。おそらく彼女は単にプッシュホンで遊んでいただけなのに、私が必要以上に心配しているだけなのだろう。だが、本能的にどうしてもそうではないという気がして仕方がなかった。(略)


その午後は私にとってかなり緊張したものになった。シーラに逃亡の前科があることを考えれば、モールは彼女を連れて行くところとしてはかなり危ない場所だった。


私はシーラに、私たちが一緒に過ごした懐かしい昔をしのぶ、楽しい気楽な時間を過ごしてほしかった。と同時に、シーラに私が彼女を信頼していることをわからせることが大切だとも感じていた。


だが、冷たいようだが本当のところは信頼しきれていなかった。私はこういう子どもたち相手の仕事をずっと長くやってきたために、容易に信じることができなくなっていた。」


「だが結局のところ、心配するようなことは何もなかった。(略)


私たちが家に戻って来ると、ヒューがすでに来ていた。シーラはびっくりした。(略)


シーラは飛び出るかと思うほど目を大きく見開いた。「ジェフもいいかげん酷いと思っていたけど。ねえ、トリイ。どこからこういう人たちを見つけてくるの?」シーラは呟くようにいった。

その夜は楽しかった。シーラはバスルームに長時間閉じこもって準備をした。例の下品な言葉を書いたTシャツなどの新しい服に身を包み、それから思う存分私の化粧品を使って化粧をした。その後ヒューが私たちを日本料理の店へ連れて行ってくれた。(略)


実際、ヒューがいちいち言う言葉があまりにばかばかしいので、私たち三人は全員身悶えして笑い、ついに箸を使えないのはシーラだけではないというところまでいってしまった。」



「「今夜は楽しかった」闇の中でシーラが小声で言った。「ヒューって好きだな。トリイはラッキーだね」
「ええ」
「本当に楽しかった。あんなに笑ったのって、ほんとうにすごい久しぶり」
「ふーむ…」
「あたしもいつかヒューみたいなボーイフレンドができるといいな」
うとうとしていて、私はその言葉に応えたかどうか覚えていない。
「トリイ?」
私ははっと目を覚ました。「え?」
「トリイ、ほんとうに彼とファックしてるの?」
「その質問は前にも聞いたと思うけど」私はぶつぶついった。(略)


「あたしにもいつかボーイフレンドが出来ると思う?つまり、もしあたしがその人とセックスをしなくても、それでもその人はあたしと一緒にいたいと思うかな?」
「本当のボーイフレンドというものは、セックスのためなんかじゃなく、もっと多くのものの為にあなたを愛してくれるものよ。それに、先のことなんてわからないじゃない。


あなたの方だって違うふうに感じるかもしれないじゃない。相手に触れたい。触れてもらいたい_そう思うのは男の人を愛する気持ちのごく自然な部分よ」
シーラは黙っていた。(略)」



「「トリイの別のボーイフレンドと一緒に過ごした時のこと、覚えてる?何て名前だっけ?チャド?彼がトリイとあたしにビザをごちそうしてくれた時のこと、覚えてる?今夜はあの時みたいだった。楽しかった。あの時みたいに」


「あの時のこと、覚えているの?」シーラが十四歳の時に、あの時のことを覚えてないと言ったのを反射的に思い出して、私はきいた。
「うん。だいたいね。えーと、細かいことはよく覚えてないけど、でも気持ちはよく覚えてる。すごく楽しかったっていう気持ちはね。トリイと彼と一緒にいて、すごく楽しかったっていうことを。もし本当のお母さんとお父さんがいたら、きっとこういう気持ちになるんだろうなって思ったことを覚えてるよ」(略)


「今夜も、言ってみれば、あのときみたいだったよ。家族みたいな気分でさあ。なんていうか……お互いがひとまとまりになっているというか」
「ええ」
「そういう気分を味わえるっていいよね。自分と一緒にいる人たちが、ドアを開けてあたしを追い出す機械を狙っているんじゃないって思えるって、いいよ」」