読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

タイガーと呼ばれた子_愛に餓えたある少女の物語

「闇の中を走りながら、私はあれこれ考えていた。そのとき、ふと、ここ数日色々大変だったけれど、いや大変だったからこそ、私とシーラとの関係が再会以来もっともいい状態になっていることに気づいた。今日はいろいろな意味で辛い日だったが、気持ちの上ではそれが報われた日でもあった。


「もうあんなことしないでしょ?」シーラが小声できいた。「もうあれは昔のことだもの、ね?」
私は彼女の方を向いた。(略)


「あの晩のことを思い出したんだ」
彼女が何のことを言っているのか思い出そうと一生懸命考えたが、どうしてもわからなかった。「あなたが何のことをいっているのかよくわからないんだけど」私は言った。
「知ってるくせに。あたしを置き去りにしたあの夜のことだよ。トリイが行ってしまった時の」
「私が行ってしまった時? どこへ?」
シーラは姿勢を正して坐りなおし、私の方を見た。「覚えてるでしょ。覚えているはずだよ。あたしが車の中でふざけていたら、トリイは車を止めて、あたしを外に出したじゃない」


「いつ?」
「あたしが小さい時のことだよ。あたしがトリイのクラスにいて、授業が終わってから。あの晩のことだよ」シーラの声に気持ちの動揺が現れていた。「トリイはあたしを車に乗せたじゃない。みんなを車に乗せたじゃない。あのとき何をするつもりだったんだろう?」彼女はこの最後の質問を、私にというより自分自身に対して聞いているように言った。



「あたしたちをどこかに連れて行こうとしていたのかな?遊びに行ったのかな?今夜みたいに。今夜トリイがしているみたいに」
私は彼女が一体何のことを言っているのか思い出そうとして、しばらく考え込んだ。


だが、私がシーラを夜、車に乗せて連れ出したのは、あの審問のあとにチャドと一緒にピザを食べに行ったあの時だけだった。
「それ、私じゃないと思うんだけど」と私は思い切って行ってみた。」」



「「私じゃないわ。あなたのお母さんよ。それにあなたの隣に座っていたのはジェイミーじゃなくて、ジミーよ。あなたの弟の。あなたは私とお母さんを混同しているのよ」
シーラは困惑しきった表情を浮かべていた。「トリイだよ。トリイがあたしを置き去りにしたんだよ。だってあたし、お母さんのことは覚えてもいないんだもの」
道路の脇に一時駐車スペースを見つけたので、そこに車を止めた。(略)



その中でシーラの顔が恐怖にひきつっているのがはっきり見えた。混乱した記憶の中の世界のはざまに立たされていたシーラは、私からここで降りるように言われるのを半ば予想しているのかもしれない、と私は思った。それで私は急いでエンジンを切った。


だが実をいえば、私たちが今まで交わした話があまりにショッキングな内容だったので、これ以上話を続けながら安全に運転をし続けることが出来なくなったからだった。この話を進めるには全神経を集中しなければならなかった。」


「「だって覚えているんだもの」困惑した声で小さく言った。「降りなさい、って言われたことを。手を後ろに伸ばしてドアを開けたじゃない。あたし、すごく怖かった。泣いてしまって、すごく怖かったから自分からドアを開けたはずがない。車が何台も通り過ぎる音が聞こえて、あたしはただ泣きに泣いていたんだけど、だれも助けに来てくれなかった」
「それは私じゃないわ」私はそっといった。



「うそ、うそだよそんなの」シーラは愕然として泣き出してしまった。
隣りのシートに身を乗り出して、私は彼女を両腕でぎゅっと抱きしめた。「私もあなたを置き去りにしてしまったから、こんなことになったのよ。そうよね。悪かったわ、ラヴィー。あのことがこれほどあなたを傷つけることになるなんて気がつかなかったのよ」」