読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

いまだ人間を幸福にしない日本というシステム

アメリカの庇護を取り除く

 

アメリカが日本を保護するという、かつての偏った関係が日本にメリットをもたらすという時代は終わった。すべての読者はこのことをしっかりと心に留めておいてほしい。いまなおアメリカが日本を保護しているとみなすことはばかげている。現実はその逆だと述べた方が説得力がある。

 

 

 

アメリカが戦争にかかわっているために、そして将来的にはさらにそうした傾向が強まると思われる為に、日本はいっそう危険な立場に追い込まれることだろう。(略)

 

 

小沢はボーイング七四七機二機分に相当する大勢の芸術家や作家、文化人や政治家たちを引き連れて、党間の、そして国民同士の関係改善のために中国におもむいたが、アメリカにはこれがまったく気に入らなかったらしい。

 

 

また鳩山首相に対しては、ドナルド・ラムズフェルド国防長官当時の自民党に無理矢理承諾させた、沖縄県アメリ海兵隊の新基地計画を支持しなかったというだけで、アメリカ人は彼がとんでもない過ちをおかしたかのように解釈した。

 

 

小沢も鳩山も、日米関係では不文律となっていたことを破ったのである。そしてアメリカ側からすれば自らの同意なしに、日本の姿勢や世界に対する将来の政策が大きく変化するなど、到底許されないことなのであった。(略)

 

 

 

ところがアメリカ政府は、外交チャンネルではなく、報道官による、日本の主張を見下すようなおおっぴらな発言を通じて、その要請を拒絶した。アメリカの有力紙はこれに関する論評の中で、日本担当の役人たちのコメントを取り上げ、日本の首相をさほどまじめにとり合う必要はないと強調していた。(略)

 

 

 

そしてアメリカ政府高官がオバマ大統領に、どこかの国際会議で出くわしたとしても、日本の首相に一五分以上の時間を与えないようにと助言した。という話がメディアにリークされた。(略)

 

 

日本のあらゆる主流派メディアの反応はこれに関してもっと重要な意味があった。日本の有力新聞のベテラン編集者たちが、既存の権力システムを維持しようと、官僚たちと協力していることを、私はよく知っているが、それでもアメリカの役人たちのみならず、日本のジャーナリストや評論家たちまでもが、露骨に最初の民主党内閣の首相を侮辱するのには驚かされた。

 

 

 

日本の記者たちは、アメリカの役人や社説執筆者たちの言葉をオウム返しに伝えるばかりで、日本が置かれた状況がいかに深刻で厳しいものであるかがまったくわからないのだ、と私は感じた。

 

 

二〇〇九年一二月、政権発足からわずか五カ月後、私はすでに、アメリカ政府が民主党の最初の内閣をくつがえそうとしていることを確信していた。

 

 

官僚と新聞が手を組んで、小沢が民主党政権の最初の首相になれないよう、とりはからったときと同様、それは火を見るよりも明らかであった。

 

 

菅直人は、鳩山の二の舞にはなるまいと、首相就任直後からアメリカの意向に反するようなことは決してしないという姿勢を見せた。野田もまた官僚の誠実なしもべとして、アメリカに懸念を起こさせないよう、なにごとも変えまいと注意していた。(略)

 

 

 

そのひとつはアメリカが日本にTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に加入するよう要請していることである。これは表向きは参加国間の貿易振興を目的としているが、実際にはアメリカで最強の企業に対し、日本国内の統治やその体制にまで影響を与えられるような、いっそう多くの権限を与えるものでしかない。だが恐らくそれ以上に重大なのは、TPPがロシアと中国の経済的な孤立をさらに深めようとする、アメリカの新しい封じ込め政策の一環だという事実だろう。

 

 

 

もうひとつの罠は、ペンタゴンが沖縄でのアメリ海兵隊基地をめぐる要求を日本が受け入れるよう、日本の政治システム全体にいやがらせを加えているにもかかわらず、日本がそれに抵抗しないことである。

 

 

 

消費税増税でさえ、アメリカ政府がひそかに日本に働きかけた事柄のひとつである。

アメリカの対日政策担当者たちが、日本政府の官僚と政治家の従来の関係が変わること等まったく望んでいないというのは、疑いのない事実だ。彼らにとっては日本の官僚機構全てが自動操縦装置まかせにしていてくれた方が好都合なのである。

 

 

 

アメリカの変貌

アメリカの対日姿勢の背後には、アメリカが大きく変貌を遂げたという一連の事情がある。悲劇と称するしかないこの変化が起きたのは、冷戦が終わり、また近年ではもっとも成功をおさめた政治運動がよからぬ影響を及ぼしたからだ。(略)

 

 

ジョージ・W・ブッシュが無用な戦争を始める前すでに、アメリカ政府は自分の命令にすぐに従おうとしなかった諸国に対しいやがらせをするようになっていた。それは国際経済機構の問題に絡んで特に顕著だった。(略)

 

 

私が先ほどの述べた、近年でもっとも成功した政治運動は、一般的に「アメリ保守主義」と呼ばれている。だがこの命名は間違っている。というのも、これがいままでにない全く新しい運動であるためで、むしろ「急進右派」と表現すべきものである。

 

 

 

この急進右派が突如として登場したのは、アメリカが同時多発テロという、一九四一年の日本による真珠湾攻撃以来の手痛い打撃を受けた時であ。この事件後、無能な大統領ジョージ・W・ブッシュは「テロとの戦争」を宣言した。

 

 

しかし現実にはそのような戦争などやりようがない。なぜなら「テロリズム」はともに席について和平交渉が出来るような相手でもなければ、警察に犯罪を根絶できないのと同様に、テロリズムを根絶することも不可能だからだ。言い換えるならば、外国とそのような戦争を始めたら最後、それは恒常的な状態になりかねない。

 

 

ところがアメリカは「テロとの戦争」を口実に、正当化しようもない戦争をはじめた。(略)

 

 

日本やヨーロッパ諸国には過激化するアメリカに追随する流れはない。つまりアメリカに共鳴し、この国を支持する日本人にも、ヨーロッパ人にも、アメリカ政府の政治の優先課題がなんであるか全く理解できないうことだ。

 

 

アメリカとEUでの金融部門の役割は変化し、そこから金融政治が生まれた。大富豪たちの富と政治力が、選挙などの既存の民主的制度よりも、はるかに政府に大きな影響力をおよぼすようになっているのだ。こうした金権政治ソ連が世界の確固たるプレーヤーとして存在していたときには生じ得なかっただろう。これもまた冷戦後に生じた悲惨な変化のひとつである。(略)

 

 

 

ここでもう一度言っておくが、アメリカは第二次世界大戦後に日本を占領した当時とはまるで変ってしまった。国連を通じて平和な世界を築きたいと尽力し、戦後の日本の経済復興に手を貸し、あるいは野望を持つ共産主義世界が世界に食指を伸ばさぬよう抑え込んだかつてのアメリカはもはや存在しないのである。

 

 

いまのアメリカは恒久的に続くであろう戦争にかかわっている。しかもなにかを守り、あるいは防衛するために必要だから戦争をしているのではなく、国内の右派政治勢力や重要な産業部門の要請でそうしているのである。(略)

 

 

なぜいまのような事態になってしまったのかについて、もう一度繰り返し主張しても無駄ではあるまい。ソ連を恐れる気持ちから、アメリカの評論家たちが「安全保障国家」と称した国がつくられた。

 

 

その中では安全保障やスパイ機構、さらに軍部が本来の目的を超えて増殖していった。こうした機構は実行可能な政策を離れて、生命体さながらに独り歩きをはじめた。アイゼンハワー大統領はこれを「軍産複合体」と命名した。だがその後、この軍産複合体アイゼンハワー時代をはるかに上回る規模へと膨れ上がっていった。

 

その実態を正確に理解するには、この巨大機構の本来の存在理由であったソ連が消滅後、これがさらに膨張を続けている事実に目を向ければ事足りる。いやまこうした機構は毎年、一兆ドル以上(軍事予算に加え、さまざまな異なる名目で配分される予算を含む)を呑み込んでいるのである。

 

 

 

日本や世界全般にとっての大きな問題は、この制御不能となった機構が常に敵を必要としていることだろう。(略)

 

 

 

いまの世界の現実の中で重要な意味があるのは、国家アメリカの基本をなすふたつの要因にもはや政治支配が効かなくなった、という事実である。ふたつの要因とは、軍事機構とアメリカの金融システムだ。

 

 

このふたつはすでに長いこと独り歩きをしているため、その活動は本来の目的からも、また政治における本来の位置づけからも大きく逸脱している。つまり、アメリカ大統領も、議会もあるいはアメリカ国民の利益を代表するいかなる制度をもってしても、この二つの要因がアメリカや世界に多大なダメージを与えるのを食い止めることはできない、ということだ。

 

 

 

それがはっきりと示されたのは、二〇〇八年の秋、これまで我々が知る戦後世界の資本主義は存続できるのだろうか、と右派評論家でさえも危ぶんだ金融危機に際してだった。(略)

 

 

アメリカの海外での活動は、自国に安全をもたらしはしない。遠く離れた地域で、大抵はロボットのような軍用機を通じて、人間を殺しては、各地の人々の深い憎しみを買っているのだから。そしてある時点で、その憎しみがアメリカの敵側のエネルギーとなれば、彼らはどんな手段を使ってでもアメリカを攻撃しようとするだろう。

 

 

テロの防止を掲げてはじまった「テロとの戦い」は長期的に見れば、さらなるテロを生み出すものでしかない。(略)

 

 

 

こうしたことを考えると、アメリカには本当の意味での戦略というものがない、という結論にいたる。なぜなら少なくとも建前上は実行可能な目標をそなえていなければ、戦略とは言えないからだ。

 

私はこれに関して別の著書のなかで、今のアメリカを一九三〇年代から一九四五年にかけて、日本の軍国主義者たちがもたらした状況と比較したことがある。日本の軍人たちが打ち出した作戦は非常にすぐれたものではあったが、戦略としてはおそまつだった。そして結局、彼らが勝利をおさめることはできなかった。

 

 

 

日本とそのほかの諸国を仲立ちする官僚たちが、十分に、そして真剣に注意すべきなのは、すでに述べたように、アメリカが国内政治上の理由から、長期にわたる敵を必要としている、という事実だ。いまこれを執筆している時点で、その最有力候補は中国とロシアである。

 

 

これら両国は日本にとってもっとも重要な隣人である。そしてこうした諸国との関係改善をはかり、相互にとって有益なものとし、ひいては世界の安全性を高めるために、日本が働きかけることが、日本の国民にとっても、そして世界の全ての人々にとっても望ましいことは明らかだ。

(略)

 

 

アメリカ政府は、民主党が政権党となって最初の数カ月にはっきりと態度で示したように、日本が中国に対して以前より友好的になってほしくないのである。そしてすでに述べたが、TPP構想とは、中国とロシアを孤立させようとする、アメリカの新しい封じ込め政策の一環でしかないことを理解すべきだ。

 

 

今述べたことが、本書の改訂版が出版される時点での状況である。(略)

 

 

日本のもうひとつの大きな国内問題は、原子力という危険な技術によるエネルギー生産にあくまで固執するグループが有する力である。日本のすべての科学者たちが原子力発電所は安全であると宣言したとしても、いまの日本の国民はそれを決して信じないだろう。

 

 

政府がはっきりした形で原子力行政と決別する姿勢を示さないかぎり、政府は国民との間に信頼関係を築くことはできないだろう。日本の人々は毎週のように終戦直後以降では最大規模の抗議デモを繰り広げ、そのことをはっきりと示しているのである。」