読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

国体論 ー菊と星条旗—

「▼「新しい国体」と新憲法制定

この統治構造は、新憲法日本国憲法)の制定過程にもよく表れている。

(略)

言い換えれば、国体の頂点を占めるGHQ(=連合国、実質的にアメリカであり、より実質的にはマッカーサー)が、天皇を通じて主権を行使する、というかたちであった。(略)

つまり、新憲法の謳う国民主権における「国民」は、制憲過程において一貫して不在であり、GHQが日本国民の主権者としての地位を代行・擬制しているにすぎない、という事実からは、目が閉ざされたのであった。

 

天皇制の存続・戦争放棄・沖縄の犠牲化 ― 「戦後の国体」の三位一体

かつ、こうした憲法制定過程という外面的事情のみならず、新憲法の内容もまた、国体護持、あるいはリニューアルに深く関わっていた。(略)

 

 

そして、戦争放棄は、アメリカの国内世論と国際世論を納得させるために必要とされていた。「ヒトラームッソリーニに比すべきヒロヒト」と考える人が世界中にいるなかで天皇を守り抜くためには、日本が完全なる非武装国家となるという大転換を打ち出さねばならなかったのである。(略)

 

 

マッカーサーからすれば、円滑な占領統治のために是が非でも天皇を救いたい。ここには両者の、阿吽の呼吸とも言うべき、協力関係を見て取ることができる。(略)

 

 

 

右に見たように、「天皇制の存続」は憲法九条による絶対的な平和主義を必要としたが、他方で、その同じ「天皇制の存続」は日米安保体制を、すなわち世界で最も強力かつ間断なく戦争を続けている軍隊が「平和国家」の領土に恒久的に駐留し続けることを必要とした。

 

 

この矛盾に蓋をする役割を押し付けられたのが沖縄である。(略)

つまり、天皇制の存続と平和憲法と沖縄の犠牲化は三位一体を成しており、その三位一体に付けられた名前が日米安保体制(=戦後の国体の基礎)にほかならない。(略)

 

 

 

ゆえに、「戦後の国体」、すなわち世界に類を見ない特殊な対米従属体制が国民統合をむしろ破壊する段階に至ったいま、その矛盾が凝縮された場所=沖縄において、日本全体が逢着している国民統合の危機が最も先鋭なかたちで現れているのである。

 

 

 

昭和天皇が果たした超憲法的な役割

なお、新憲法施行以降、日米安保条約の成立に至る過程で昭和天皇が取った行動は、憲法に定められた天皇の権限から逸脱した政治介入である。(略)

その役割とは、自己の意思を強硬に押し付けるということではないが、完全に受動的で名目的な存在としての立憲君主のそれというものでもなかった。(略)

 

 

 

ただし、当人の認識はともかくとして、終戦から日米安保体制の成立に至る体制全般の危機の過程で天皇が果たした役割は、超憲法的なものであった。戦争終結天皇自らが実質的に裁断した場となった御前会議は明治憲法において規定のない超憲法的存在であったし、新憲法の下では、主権者であると擬制された国民の選んだ政府と超憲法的権力そのものであるGHQおよびアメリカ政府とを媒介する役割を果たしたのであった。」