読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

サピエンス全史 下

「<化学から見た幸福>  生物学者の主張によると、私たちの精神的・感情的世界は、何百万年もの進化の過程で形成された生化学的な仕組みによって支配されているという。

他のあらゆる精神状態と同じく、主観的厚生も給与や社会的関係、あるいは政治的権利のような外部要因によって決まるのではない。そうではなく、神経やニューロンシナプス、さらにはセロトニンドーパミンオキシトシンのようなさまざまな生化学物質から成る複雑なシステムによって決定される。」



「地上に楽園を実現したいと望む人全員にとっては気の毒な話だが、人間の体内の生化学システムは、幸福の水準を比較的安定した状態に保つようにプログラムされているらしい。(略)

幸福と不幸は進化の過程において、生存と繁殖を促すか、妨げるかという程度の役割しか担っていない。それならば、進化によって私たちが極端に不幸にも、極端に幸福にもならないように形作られていても、不思議はないかもしれない。」




「学者の中には、人間の生化学的特性を、酷暑になろうと吹雪が来ようと室温を一定に保つ空調システムになぞらえる人もいる。状況によって、室温は一時的に変化するが、空調システムは必ず室温をもとの設定温度に戻すのだ。」


「ここでしばらく、あなたの家族や友人のことを思い浮かべてほしい。おそらくあなたの周囲にも、どんなことが降りかかろうと、常に比較的楽しそうにしている人もいれば、どれほど素晴らしい巡りあわせに恵まれても、いつも不機嫌な人もいるだろう。(略)

ほんのつかの間、生化学的状態を変動させることはできるが、体内のシステムはすぐに元の設定点に戻ってしまうのだ。」


「既婚者が独身者や離婚した人たちよりも幸せであるのは事実だが、それは必ずしも結婚が幸福をもたらすことを意味しない。幸せだからこそ、結婚できたのかもしれない。

より正確にいえば、セロトニンドーパミンオキシトシンが婚姻関係を生み出し、維持するのだ。(略)というのも、生活を共にするなら、幸せで満足している配偶者とのほうが、沈みがちで不満を抱えた配偶者とよりも、はるかに楽だからだ。


したがって、既婚者の方が概して独身者よりも幸せであるのは事実だが、生化学的特性のせいで陰鬱になりがちな独身者は、たとえ結婚したとしても、今より幸せになれるとはかぎらない。」


「中世フランスの農民と現代のパリの銀行かを比べてみよう。農民は近くのブタ小屋を見下ろす、暖房もない泥壁の小屋に暮らしていた。一方、銀行家が帰るのは、テクノロジーを駆使した最新機器を備え、シャンゼリゼ通りが見える豪華なペントハウスだ。


私たちは直感的に、銀行家の方が農民よりもずっと幸せだろうと考える。だが、泥壁の小屋やペントハウスシャンゼリゼ通りが私たちの気分を本当に決めることはない。セロトニンが決めるのだ。


中世の農民が泥壁の小屋を建て終えたとき、脳内のニューロンセロトニンを分泌させ、その濃度をXにまで上昇させた。2014年に銀行家が素晴らしいペントハウスの代金の最後の支払いを終えた時にも脳内のニューロンは同僚のセロトニンを分泌させ、同じようにその濃度をXにまで上昇させた。

脳には、ペントハウスが泥壁の小屋よりもはるかに快適であることは関係ない。肝心なのは、セロトニンの濃度が現在Xであるという事実だけだ。」


「遺伝の宝くじで運良く陽気な生化学的特性を引き当てた人は、革命前も、革命後と同じように幸せだった。陰鬱な生化学的特性を生まれ持った人は、かつてルイ16世やマリー・アントワネットについて愚痴をこぼしていたのと同じぐらい苦々しく、ロベスピエールやナポレオンについて不平を並べたのだ。」


世界恐慌のさなか、1932年に出版されたオルダス・ハクスリーディストピア小説素晴らしい新世界」(黒原敏行訳、光文社古典新訳文庫、2013年、他)では、幸福に至上の価値が置かれ、精神に作用する薬物が警察や投票に取って代わって政治の基礎をなしている。そこでは誰もが毎日、「ソーマ」という合成薬を服用する。この薬は、生産性と効率性を損なわずに、人々に幸福感を与える。(略)

ハクスリーの描く世界は、多くの読者にとって恐ろしく感じられるが、その理由を説明するのは難しい。誰もがつねにとても幸せであるというのに、そのどこが問題だというのだろうか?」