ジャパン・クライシス
「「財政敗戦」へのカウントダウン
橋爪 戦前の日本には「必勝の精神」があって、敗戦のことなど考えるだけでもいけなかった。でも実際には、戦争して敗れてしまいました。戦後になって、日本の国策は「経済大国」に変わりました。でも、そこでもまた、「敗戦」は想定されなかった。
それが今、敗戦秒読みのところまで来てしまって、このまま何もしなければ、また敗戦の憂き目をみることになるのではないでしょうか。
財政問題に関して、これまで抜本的な解決策が打ち出されたことはなく、おそらく今後もそうでしょう。増税と歳出削減という厳しい改革を遂行する以外に出口はありえません。しかし、それしかないとわかっていても、それが実行できない。
まるで戦前に、中国から撤退すべきだとわかっていたのに、それが出来なかったのと同型です。
敗戦の結果、陸海軍がなくなり、世界の国々と付き合ってもらえるようになった。中央省庁、日銀、地方自治体、それから大企業が、この国難を救うはずなのですが、戦前の陸海軍と同じで時代遅れになっていて、総退場願わなくてはならないひょうな状況です。
小林 先の戦争の時もそうでしたが、もう一つの問題は、国民からの健全なフィードバックがうまく活かされないということです。戦前も、優れた判断力を有する人が在野にはたくさんいたのに、軍や官僚ばかりが政策決定権を握ってしまい、そうした人々の知恵が政策にきちんと活かされなかった。
橋爪 「国債価格が下がると困るので、国債を買い続ける」という先ほどの理屈は、「日支事変で失われた三〇万人の尊い犠牲を無駄にするのか、ハル・ノートは呑めない」と突っぱねた、戦前の陸軍の言い分とそっくりです。
これだけコストをかけたのだから、後戻りはできないというのと、国債の発行はやめられないというのは、同じ論理構造です。
おかげで戦前は、手痛い敗戦を経験することになってしまった。
しかし敗戦は、日本をリセットするいい機会でもあった。しかしいま再び、同じような敗戦を迎えようとしている。そもそも、ハル・ノートが示された段階で、陸海軍を解体していれば、あれほど酷いダメージを被ることはなかった。
小林 少なくとも中国から撤退するべきだったのです。
それで言うなら、今は、「社会保障制度をしっかり整備します」とか「国債は値下げさせません」とかいった、これまでの約束について、政治家や官僚が、「ごめんなさい、とても約束はまもれません」と言えるかどうかですね。
これが現代版の「撤退」のはずですが、彼らはそれがなかなか言えない。だからこそ、こういう本を通じて、「こうすべきではないか」と提言することが重要です。
橋爪 そう、いずれ財政が破綻するしかないとしても、「破綻する危険がある」とか「そうなったら、こんなひどいことが起きる」と、はっきり言わなくてはならない。
小林 一人でも多くの人にこの問題を知ってもらって、世論を変えていかなくてはなりません。そうなっても、もう手遅れかも知れないのですが…。
病状診断のポイント
1 一般刑系の予算九七兆円に対して、歳入はその半分弱。不足分は国債の発行で賄われている。
2 日本経済が慢性疾患にかかっている原因は、政府の歳出が大き過ぎ、歳入が小さ過ぎるという不均衡が続いていること。この不均衡は、長期不況対策としての大幅減税と高齢化に伴う社会保障費の増大による歳出の増加の結果である。
〇「社会保障制度」のせいで、歳出が膨らんだ。不況対策としての減税のせいで、歳入と歳出の不均衡が続いている。といかにも、社会保障制度や不況にその原因があるように言われているけれど、例えそうだとしても、財政破綻に陥るような政策しか取れなかったのは、ここで、橋爪氏が言っているように、その存在が国難とも言えるような「無能な人々」が政権を担っていたからだ、と言われてもしょうがないと思います。
何故、そんな人々に政治を任せて来たのか。結局、私たち国民が政治的に未成熟だったから、ということになるのでしょう。