読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

安倍官邸とテレビ

「第五章 「表現の自由」は誰のために


二〇一六年四月の番組改編で、安倍政権に批判的、ないし過去にトラブルとなったテレビ番組のキャスターが次々と降板することとなった。
テレビ朝日系「報道ステーション」の古館伊知郎氏、TBS系「NEWS23」の岸井成格氏、NHKクローズアップ現代」の国谷裕子氏だ。
それぞれの事情は異なる。


古館氏は契約満了で、自ら降板

(略)
番組では今年3月、コメンテーターで元経済産業省官僚の古賀茂明さんが生放送中に官邸などを批判し、問題になった。降板との関係について古館さんは「全くありません」と否定した。
ニュースキャスターの役割を問われると、「基本的に反権力、反暴力であり、言論、表現の自由を守る側面もある。あまりにも偏ってはいけないとはいえ、まったき純粋な中立公正などありえない」と語り、「ニュースキャスターが意見を言ってはいけないということはないと思っている。偏っていると言われれば、偏っているんです、私」とした。(略)


視聴者から寄せられる意見委は毎日目を通しているといい、「誹謗中傷、批判、非難。つらいときがいっぱいありましたが、へこんだ分だけ免疫も強くしていただき、育てられました」とした。(略)



岸井氏はスペシャルコメンテーターに

岸井氏は毎日新聞特別編集委員で、二〇一三年四月から「NEWS23」のキャスターをつとめていたが、二〇一六年一月一五日、TBSテレビが同局初のスペシャルコメンテーターに就任することを発表、同番組を降板することとなった。(略)


評論家の佐高信氏は、「NTTドコモEWS23」からの岸井氏”降板”について、「月刊日本」二〇一六年一月号「岸井降ろしの黒幕は官邸か」で、こう述べている。


(略)
私は「週刊金曜日」に「岸井成格一人がそんなに怖いのか」と書きましたが、岸井降ろしは前々から計画されていたのもではないか。今年の春先に官房長官のスゲ、じゃなくてスガか、菅は「国会の見通しがついてから」と多忙を理由に沖縄の翁長知事に中々会おうとしなかった。


それなのに、わざわざ岸井が私的に開いている勉強会に来て、Ⅰ時間だか2時間だか知らないが最初から最後までいて、岸井に「良いお話を聞かせて頂きました」と言って帰って行ったそうです。翁長知事に会う時間はないのに、岸井の話を聞く時間はあるというわけだ。
(流略)


――― なぜ岸井成格一人がそんなに怖いのでしょうか。

佐高 岸井が攻撃された理由は二つあると思う。一つは、9月16日に「NEWS23」で「メディアとして(安保法案の)廃案に向けて声をずっと上げ続けるべきだ」と政権を批判したことです。これは国民の声を代弁した当然の主張ですよ。



しかし、他のマスコミはそれすら出来ないほど腰が砕けている。(中略)だから一本筋を通している岸井一人だけが屹立する形になって標的にされてしまった。
もう一つは、岸井と安倍の個人的な関係です。
(中略)




岸井も安倍が煙たい人間の一人です。安倍の親父の晋太郎は毎日新聞の記者だったから、岸井とは先輩後輩の関係でした。岸井は晋太郎が外相の時に晋太郎番をやっていて、晋太郎が書いた原稿をリライトするほどの仲だった。



ちょうどその頃、晋太郎が頭を悩ませていた全く使えない秘書が安倍晋三です。晋太郎は周囲に「困ったものだ」とよく漏らしていたらしいが、岸井はその姿を誰よりもと言って良いくらい知っている。(略)



国谷氏交代は「局幹部の指示」

一方、NHKは四月から「クローズアップ現代」の放送開始時間を午後一〇時に変更することにともない、国谷氏との契約を更新しなかった。制作現場は国谷氏の続投を強く求めたが、内容を一新するため局幹部が降板を決めたという。(略)


そもそも、国谷氏と安倍政権の関係が問題にされたのは二〇一四年七月三日放送の「クローズアップ現代」で、この日は集団的自衛権閣議決定を取り上げた。出演した菅官房長官に、国谷氏は「解釈の変更は日本の国のありかたを変えるというようなことだと思うのですが、国際的な状況が変わったというだけで憲法の解釈を本当に変更してもいいのかという声もありますね」などと切り込んだ。



国民が普通に思う”素朴な疑問”であり、菅官房長官の応対も含めて、視聴者としては興味深い番組であった。
しかし、この回の放送終了後、制作現場に対して、官邸サイドから強烈な”圧力”がかけられた―― という噂が、盛んに流れることとなった。



同年七月一一日発売の週刊誌「フライデー」(七月二五日号)は、「国谷キャスターは涙した 安倍官邸がNHKを”土下座”させた一部始終」と題して記事化した。(略)


前章で触れたように、翌二〇一五年四月、週刊誌で報じられた「クローズアップ現代」の”やらせ”疑惑について、NHKの経営幹部が自民党本部に呼びつけられる。



キャスター交代でテレビは窒息するのか

このように三者三様の事情はあるにせよ、視聴者からみれば、安倍政権を批判したキャスターは交代させられる、というイメージを抱きかねない”連鎖現象”である。
本書でみてきたように、安倍官邸はTBSとテレビ朝日に対して、きわめて冷淡である。


過去にいくつかの”トラブル”があり、二〇一五年以降は、両局系列に出演することはない。「NEWS23」「報道ステーション」という両局を代表する報道番組が、意見広告や自民党本部への呼びつけなど、様々な形で揺さぶられ、そして、長年つとめたキャスターが交代する。これは”偶然”の流れなのだろうか?(略)



「中立」や「政治的公平」というキーワードばかりに引きずられると、自然、キャスターは無難なことしか言わなくなる。言葉は悪いが、ロボットがしゃべっているのと同じである。(略)


何度も繰り返すが、メディア本来の役割は権力監視であり、キャスターはテレビ局と視聴者をつなぐ大動脈である。その大動脈が詰まってしまえば、テレビは窒息し、息絶える。
「そして、誰もいなくなった」では、困るのだ。」