読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

ホモ・デウス (上) (第2章 人新世)

「第1部  ホモ・サピエンスが世界を征服する

 

ほかの動物たちにしてみれば、人間はすでにとうの昔に神になっている。私たちはこれについてあまり深く考えたがらない。なぜなら私たちはこれまで、とりたてて公正な神でも慈悲深い神でもなかったからだ。(略)

 

 

 

グリム兄弟や赤頭巾や大きくて悪いオオカミゆかりの地であるドイツには、今日、何頭のオオカミが住んでいるのか?一〇〇頭に満たない(しかもその大半は、近年国境をこっそり超えたポーランドのオオカミだ)。

 

 

 

ドイツには五〇〇万頭の飼い犬がいる。合計するとおよそ二〇万頭のオオカミが依然として地球上を歩きまわっているが、飼い馴らされた犬の数は四億頭を上回る。

 

 

 

世界には四万頭のライオンがいるのに対して、飼い猫は六億頭を数える。アフリカ水牛は九〇万頭だが、家畜の牛は一五億頭、ペンギンは五〇〇〇万頭だが、ニワトリは二〇〇〇億羽に達する。

 

 

 

一九七〇年以来、生態系に対する意識が高まっているにもかかわらず、野生動物の数は半減した(一九七〇年の時点でさえ、彼らが繁栄していたわけではない。一九八〇年にはヨーロッパには二〇億羽の野鳥がいた。二〇〇九年には一六憶羽しか残っていなかった。

 

 

同じ年にヨーロッパ人は、肉と卵のために一九億羽のニワトリを育てている。今日、世界の大型動物(体重が数キログラムを超えるもの)の九割以上が、人間か家畜だ。

 

 

学者は地球の歴史を更新世鮮新世、中新世のような年代区分に分ける。公式には、私たちは完新世に生きている。とはいえ、過去七万年間は、人類の時代を意味する人新世と呼ぶ方がふさわしいかもしれない。なぜなら、この期間にホモ・サピエンスは地球の生態環境に他に類のない変化をもたらす、最も重要な存在となったからだ。

 

 

これは前例のない現象だ。およそ四〇億年前に生命が登場して以来、一つの種が地球全体の生態環境を変えたことはなかった。(略)

 

 

 

たしかに、大型の小惑星がおそらく今後一億年間に地球に衝突するだろうが、来週の火曜日にそれが起こる可能性は非常に低い。私たちは小惑星を恐れる代わりに、自分自身を恐れるべきだ。

なぜなら、ホモ・サピエンスがゲームのルールを書き直してしまったからだ。このサル目の一つの種が単独で、七万年の間に前代未聞の形で徹底的に全地球の生態系を変えてのけたのだった。(略)

 

 

 

だが、人新世は過去数世紀間の新奇な現象ではない。すでに何万年も前、私たちの石器時代の祖先が東アフリカから世界中に拡がったとき、住み着いたすべての大陸と島の動物相を変えたからだ。彼らは世界の他の全人類種や、オーストラリアの大型動物の九割、アメリカの大型哺乳動物の七五パーセント、地球上の全大型陸生哺乳動物のおよそ半分を絶滅に追い込んだ―― それもすべて、最初の小麦畑の作付けをしたり、最初の金属器を作ったり、最初の文書を書いたり、最初の硬貨を造ったりする前に。(略)

 

 

もちろん、私たちの祖先はマンモスを絶滅させるつもりだったわけではない。自分たちの行動の結果を自覚していなかっただけだ。(略)

 

 

ヘビの子供たち

 

人類学や考古学の証拠を見ると、太古の狩猟採集民はおそらくアニミズムの信奉者だったことがわかる。彼らは、人間を他の動物と隔てるような本質的な溝はないと信じていたのだ。(略)

 

 

 

アニミズムの世界観は、現代まで生き延びてきた一部の狩猟採集コミュニティを依然として支配している。その一つが南インドの熱帯林に暮らすナオヤカの人々だ。彼らを数年にわたって研究した人類学者のダニー・ナヴェの報告によれば、ナヤカの人々が密林を歩いていて、トラやヘビやゾウのような危険な動物に出くわすと、次のように語りかけるという。

 

 

 

「お前は森に住んでいる。私もこの森に住んでいる。お前は食べ物を求めてここに来たし、私も木の根や塊茎を採りにここに来た。お前を傷つけに来たわけではない」(略)

 

 

 

そのようなアニミズムの態度は、多くの先進工業国の人には馴染みがない。私たちの最古の伝統でさえ、狩猟採集時代の終焉よりも何千年も後に生み出されたからだ。たとえば旧約聖書は、紀元前一〇〇〇年紀に書かれ、その中の最古の物語は、紀元前二〇〇〇年紀の現実を反映している。

 

 

 

だが中東では、狩猟採集民の時代はそれより七〇〇〇年以上前に終わっている。したがって、聖書がアニミズムの信仰を拒絶し、聖書で唯一のアニミズムの物語が不吉な警告として冒頭に登場することは、少しも意外ではない。(略)それにもかかわらず、動物が人間との会話を始めるのは、禁断の知恵の木の実を食べるようにへびがイヴをそそのかすときだけだ(バラムのロバも少しだけ口を利くが、神からのメッセージをバラムに伝えているにすぎない(「民数記」第22章28・30節))。

 

 

 

エデンの園では、アダムとイヴは採集民として暮らしていた。エデンの園からの追放は、農業革命と目を見張るほどよく似ている。怒れる神は、アダムに野生の果実を集め続けるのを許さず、「顔に汗を流してパンを得る」(「創世記」第3章19節)ことを運命づけた。(略)

 

 

 

多くのアニミズムの文化では、人間は動物の子孫だと信じられており、その動物はヘビやその他の爬虫類の場合もある。オーストラリアのアボリジニのほとんどは、虹ヘビが世界を創造したと信じている。アランダ族とディエリ族の人は、「自分たちの部族は原始のトカゲあるいはヘビに端を発すると言い切る。トカゲやヘビが人間に姿を変えたというのだ。

 

 

じつは、現代の西洋人も自分たちが爬虫類から進化したと考えている。私たち全員の脳は、爬虫類の脳を核として構成されているし、体の構造は事実上、爬虫類の体の修正版だからだ。(略)

 

 

 

事実、近代の人間は、自分たちは本当に爬虫類から進化したことを発見した時、神に反逆し、神の言葉に耳を傾けるのをやめた。あるいは神の存在を信じることさえなくなった。」