読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

タイガーと呼ばれた子_愛に餓えたある少女の物語

「そんな具合で私たちはスタートした。いつも初日はそうであるが、多少は混乱した。だが、それを見越して前もって、魅力はあるけれど控え目な内容をその朝のために計画していたので、困ったことは起きなかった。


シーラはケイリーと仲よくなった。というかおそらくケイリーのほうからシーラと仲よくしてきたのだろう。(略)


二人が一緒にテーブルのところでかがみこんで何かやっているのを見守りながら、これでよかったんだわ、と私は思った。シーラはケイリーに話しかけていて、ときどき話すのをやめては相手の方をちらりと見ていた。


七年前は、シーラがあの小さい子共だった。巡り巡って彼女をまたこうして見られることに私は心の底から報われた思いがした。」


「中でも最高だったのは、教室の後ろに私と一緒にシーラがいたということだった。今日は初日で、私たちの前には洋々たる未来が開かれていた。私は彼女を見た。そこにいたのはまぎれもないあのシーラだった。再開してから初めて、私はそのことを確信した。」

「「で、どうだった?」車の中で二人っきりになると、わたしはきいた。シーラはしばらく黙っていた。「あたし、トリイのパートナーの人、あんまり好きじゃないな。神経症によるタイコーとかなんとかってへんなことばっかりいって、あれ、一体何なの?」
「ジェフはフロイト派なのよ。だからその点、大目に見てあげなくっちゃ」」



「「思ったんだけど…あの、トリイがどうしてこういう仕事に夢中になっているのかがわかるような気がする」シーラはそう言ったが、その声は静かでどこかよそよそしかった。


「人間にはああいうことが起こるってことをことをきいて、それがあまりに不公平だから、何かしなきゃって気もちになるんでしょ。とにかく、私だったらそう思うな」ここでシーラは一息ついて、続けた。「まあ、それがひとつの反応だね」
「もう一つの反応は?」とわたしはきいた。


「両手を目に当てて、指を耳につっこんで、そういう情報がはいってこないようにしたくなる。つまり、この世の中が酷いところだってことはもう十分知ってるわけだからfd。それがほんとうはもっと悪いところだって知ることに自分が耐えられるかどうか自信ないよ」」




「タマラの血を見て、彼は両頬に手を当てたまま悲鳴を上げ続けている。私は彼の方に駆け出したが、これが事態をさらに悪くしてしまった。わけのわからない叫び声をあげて、アレホは芝生を突っ切って走り、一本の木のところまでいくと、小猿のようにするすると木の上の枝の方まで登って行った。(略)



「あの子をつかまえてくるわ」そういうと、だれにも反論する暇をあたえず、シーラは枝に飛びついて上に登った。」




「シーラは枝の間をくぐりながらアレホと同じように軽々と木を登って行き、ちょうどアレホのすぐ下の枝まで到達した。シーラがアレホに何か言ってる声が聞こえたが、何を言っているのかまではわからなかった。(略)



だれかに電話をして助けを呼んだほうがいいとわたしが言おうとしたとき、シーラが降り始めたのが見えた。そしてそのあとすぐに、アレホも彼女の後から降りて来た。ジェフとミリアムと私は三人ともほっとして、安どのため息をついた。


「きみは英雄だな」全員でようやく学校へと戻り始めた時、ジェフがシーラに言った。ジェフは片腕を伸ばしてシーラの肩に載せた。「じつによくやってくれたよ。自分でも誇りに思うだろう」
うなづきながら、シーラは彼の腕からすりぬけた。」


「私は黙っていた。シーラの喋り方には随分トゲがあり、私はだんだん居心地が悪くなってきた。シーラはわたしと一緒にいたいと思っている反面、私といるとすぐにいらいらするようにも思えた。


おそらく思春期独特のむら気のせいというだけなのだろう。私は思春期の子とつき合うのがあまり得意でなかったので、よけいにうまく行かなかった。いずれにせよ、少し困ってしまった。


シーラは私の気持ちに気づいたのか、なだめるような口調にもどった。「スペイン語で話した方があの子の気持ちが和らぐと思ったんだよ。もっと安心できるっていうか。ただちょっとそう思っただけなんだ」」



「「あのね、トリイだってそんなに偉そうなこと言えないんじゃないの。あの本の中では、トリイは物事にたいしてすごく我慢強いみたいだけど、実際にはそうじゃないじゃない」
私は彼女の方を見た。「どういう意味?」
「どんなことにもすぐ腹を立てるじゃない。運転しながらも他のドライバーのことをずっと罵ってるし」(略)


「怒った!”放しなさい”ってすっごく意地悪な声でいったよ。本のなかでの口調とは全然ちがってた。本ではトリイはすっごく我慢強くて、やさしいくせに。本のなかでは、トリイはどこまでも待っていて、罵りの言葉なんてぜったいいわない。でも今は本当のあんたがどういう人なのかよくわかった。あんたは絶えずぷりぷりしている人なんだよ」」



〇再会した時には、トリイは怒ったことなんてない、と言っていたのに、今は、他のドライバーに対するちょっとした言葉を聞いて、幻滅しているシーラ。
記憶の中や本の中の人が、現実に今、目の前で生きている人と印象が違うというのは、よくある話だと思います。

シーラは思春期で、反抗期のようにも見えます。あの斎藤学氏が言っていたように、「泥臭い毎日の付き合い」を続けるトリイは、大変だろうなぁと思います。