読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

「正義」を考える  生きづらさと向き合う社会学

「4 エリート主義と民主主義_代表制のパラドクス
以上の考察は、資本主義と民主主義_とりわけ代表制民主主義_との関係という主題へと、われわれを自然と導くことになります。


ここまで<資本>というシステムは、自分の主体性を他者に委ねて、代表してもらう形式だということを検討してきました。ですから、民主主義の構成と似ているのです。(略)


しかし、現在はそれに疑問を投げかけるにふさわしい時期です。ポイントは中国における資本主義の成功です。中国では、ご存知のように、1989年に天安門事件がありましたが、政治的には民主化しなかった。けれどもその後、経済的には資本主義化がずいぶんと進んだ。(略)


ここで、中国の資本主義が、政治システムが民主主義ではないために苦労しているかどうか、ということを考えてほしいんです。そんなことはありません。むしろ、どちらかといえば逆です。」



「しかし、ジジェクによれば、文革こそが資本主義を準備するための地ならしをした。どういうことかというと、文革とは、根底から中国の伝統と歴史を否定するという運動なんですね。例えば、その辺のチンピラみたいな者が立派な知識人よりもいばっていたりする。


造反有理、すなわち、反抗するには常に理由があるというわけで、中国の基本的な伝統や慣行、制度とか規範を全部蔑ろにするわけです。
よく考えてみると、このような伝統や歴史に拘らない精神こそが、資本主義的なイノヴェーションを可能にするのです。」


「<コミュニケーションの二段の流れ>
さて、1950年代のアメリカで活躍した、ウォルター・リップマンというジャーナリストがいます。(略)


ただ、エリート知識人は、あたかもすべてを見通しているかのように人に思わせなければいけない。それこそが、世論が形成され、あるいは民主主義がうまく機能するための絶対の条件であるというのがリップマンの言っていることです。


つまり、個々の人は、自分のことしかわからない。ローカルな視野しか持っていない。でも、誰かが普遍的な知を持っているという幻想が成り立つことが重要なんです。この時初めて市民は、エリートによって自分たちが代表されていると思うことができる。エリートは、「普遍的な知」という不可能な理想を具現するのですね。


ここで重要なのは、エリートが自分の代わりに見通してくれていると判断すると、その時個々人は、自らが選んだような気分になるということです。人は、自分のために、自分に代わって何かをやってくれる他者を選ぶことができれば、自分がやっているに等しいという気分になる。これこそが民主主義の重要なトリックです。


このような、誤ってはいても、しかし政治的に有意味な幻想を持つことが可能になるのが民主主義のポイントだと思うんですね。」


「だから、民主主義の危機はどこに生ずるかというと、実はエリートのところに来る。民主主義とは人民による自己決定みたいなものだから、人民が自信を失った時に、自らを信頼できなくなった時に、民主主義は危機に陥ると思われるかも知れない。


そうではありません。民主主義が危機的状態になるのは、エリートを信頼できなくなったときです。つまり、民主主義とエリート主義は、対立的なものと見なされがちですが、むしろ持ちつ持たれつの相互依存の関係にある。民主主義が機能するためにはエリート主義が機能していなければいけない、そういう構造になっているのです。」


「<問題の整理>
以上、本章で語ってきたことが、第2章までの議論とどうつながっているのかを整理しておきましょう。この現代社会では、自分の生や社会を一つの物語のうちに解釈することの困難にぶつかっているのではないか。それが最初の問題提起でした。


そしてコミュニタリアンの議論との関連でわかることは、この物語は、自分がどの共同体の中で、どのような役割やアイデンティティを持っているのかということ、つまり共同体の中でのポジションと深くかかわっていました。


物語というのは、常に目的論的な構成を持っている。だから、共同体がどこに向かって行くのかということ、共同体の目的が、物語を可能にする不可欠の前提条件になっています。共同体に承認されている物語の中で、人は自分の役割を見出すからです。


しかし、ここに概観してきたように、資本主義と代表制民主主義の両方に共通している受動化のメカニズム_意志の能動性を超越的な他者に投射し続けるメカニズム_は、共同体についての包括的な判断が帰属する視点そのものを否定してしまいます。


つまり、共同体がどこに向かっているか、共同体の本性やテロスについての判断が帰属するような場所が消え失せてしまうのです。


民主主義との関連で言えば、かつて、エリートによって占められていたその場所が、機能しなくなる、というわけです。このとき、物語の崩壊は必然です。それを導いているのは、繰り返せば<資本>のメカニズムであり、それと一体化している民主主義の自己崩壊のメカニズムです。以上が、ここまでのとりあえずの結論です。」


〇そうなのか~と思えばわかったような気分にはなれるのですが…。