読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

サピエンス全史 下

「<帝国が支援した近代科学>  近代の科学と帝国は、水平線の向こうには何か重要なもの、つまり探索して支配するべきものが待ち受けているかもしれないという、居てもたってもいられない気持ちに駆り立てられていた。(略)

帝国を築く人たちの慣行と科学者の慣行とは切り離せなかったのだ。近代のヨーロッパ人にとって、帝国建設は科学的な事業であり、科学の学問領域の確立は帝国の事業だった。

イスラム教徒がインドを征服した時には、考古学者が同行して体系的にインドの歴史を調べたり、人類学者が文化を研究したり、地質学者が土壌を調べたり、動物学者が動物相を調査したりはしなかった。

一方、イギリスがインドを征服した時には、そういったことをすべて行った。」


〇アステカやインカ帝国を滅びした残虐非道なヨーロッパ人。そのことは、間違いないのですが、もしどこかの民族が他の諸民族を滅ぼし帝国を作るというのが、世界の必然だったのなら(そんなことはなく、たまたまそうだった、ということでしょうけど)ヨーロッパ人で良かったのかも…と思うのは私が今の人間だからなんでしょうか。

世界中が、科学の恩恵に浴することが出来るようになったのは、結果として、ここでヨーロッパが世界を征服したからだ、ということになるのでしょう。

この後、インドの稀少なクモやチョウの研究、遺跡の発掘、楔形文字の解読、比較言語学等に関する具体的なエピソードが語られていて、面白いです。


「実際、それまでのどの征服者よりも、さらには地元民自身よりもはるかによくわかっていた。征服者たちの秀でた知識には、明らかに実用面で利点があった。こういった知識がなかったら、とんでもなく人数の少ないイギリス人が、何億ものインド人を二世紀にわたってうまく統治したり迫害したり搾取したりできたかどうか疑わしい。」


「さらに、諸帝国が積み上げた新しい知識によって、少なくとも理論上は、征服された諸民族への援助が可能になり、「進歩」の恩恵を与えられるようになった。(略)

つまり、医療や教育を施し、鉄道や用水路を造り、正義や繁栄を保証することが出来るようになった。帝国主義者は、自らの帝国は大規模な搾取事業ではなく、非ヨーロッパ人種のために実施する利他的な事業なのだと主張した。」


〇いわゆる「きれいごと」です。「偽善者」です。
でも、いつも思うのですが、きれいごとを言って、多少なりともそのきれいごとを実践しようとする人の方が、「きれいごと」を知らない人よりもずっとマシだと思うのです。

何度も同じことを言って恐縮ですが、黒いものを白いというそういう、「汚いやり方」を平気でして、それがまかり通るという社会はおかしいと思います。
きれいごとは言っても、なかなかそうは出来ないのが、人間です。

でも、先ず、「きれいごとを言う」「きれいにやろうとする」それが大前提だと思います。きれいごとを言う人を馬鹿にする風潮があるのは、すごくおかしいと思います。


「当然ながら事実はこの神話としばしば食い違った。イギリス人は1764年にインドで最も豊かな州、ベンガルを征服した。この新しい支配者たちは自らが豊かになること以外にはほとんど関心がなかった。

杜撰な経済政策を採用し、そのせいで数年後にはベンガル大飢饉が勃発した。(略)ベンガル州の人口の三分の一に当たる、およそ1000万人のベンガル人がこの悲惨な出来事で亡くなった。」


「(略)彼らの犯した罪でたやすく百科事典が一冊埋まるだろう。(略)…帝国の功績で別の百科事典が一冊埋まるだろう。

ヨーロッパの諸帝国は、科学との密接な協力により、あまりにも巨大な権力を行使し、あまりにも大きく世界を変えたので、これらの帝国を単純には善や悪に分類できないのではないか。

ヨーロッパの帝国は、私たちの知っている今の世界を作り上げたのであり、その中には、私たちがそれらの諸帝国を評価するのに用いるイデオロギーも含まれているのだ。」


「こういった人種差別的な理論は、何十年にもわたってもてはやされ、世間に認められてきたが、やがて科学者にも政治家にも等しく忌み嫌われるようになった。

人びとは人種差別との高潔な戦いを続けているが、戦いの場が移ったこと、そして帝国主義イデオロギーに占めていた人種差別の位置には、今や「文化主義」が収まっていることには気づいていない。(略)


今日のエリート層は、多様な人間集団にはそれぞれ対照的な長所があると主張する時、十中八九、人種間の生物学的相違ではなく文化間の歴史的相違の視点から語る。私たちはもやは「血統だ」とは言わず、「文化のせいだ」と言う。」


「たとえば、イスラム教徒の移民に反対するヨーロッパの右翼政党は通常、人種差別的な語句を用心深く避ける。(略)

西洋文化はヨーロッパで発展したため民主主義的価値観や寛容さ、男女平等を特徴とする一方、中東で発展したイスラム文化は階層的な政治、狂信性、女性蔑視を特徴とすると主張する傾向にある。

二つの文化はあまりにも違うし、多くのイスラム教徒移民は西洋の価値観を取り入れようとしない(し、ひょっとすると取り入れられない)から、内紛を煽ってヨーロッパの民主主義と自由主義を蝕んだりしないように、流入を許すべきでないと主張する。」

「言うまでもなく、これは話の全貌ではない。科学は帝国だけでなく他の制度にも支えられてきた。(略)科学と帝国の華々しい隆盛の裏には、きわめて重要な力が潜んでいる。それは資本主義だ。」