読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

サピエンス全史   上 <貨幣の代償>

「貨幣は二つの普遍的原理に基づいている。

a 普遍的転換性_貨幣は錬金術師のように、土地を忠誠に、正義を健康に、暴力を知識に転換できる。

b 普遍的信頼性_貨幣は仲介者として、どんな事業においてもどんな人どうしでも協力できるようにする。


これら二つの原理のおかげで、厖大な数の見知らぬ人どうしが交易や産業で効果的に協力できるようになった。だが、一見すると当たり障りのないこの原理には、邪悪な面がある。

あらゆるものが転換可能で、信頼が個性のない硬貨やタカラガイの貝殻に依存している時には、各地の伝統や親密な関係、人間の価値が損なわれ、需要と供給の冷酷な法則がそれに取って代わるのだ。



人類のコミュニティや家族はつねに、名誉や忠誠、道徳性、愛といった「値のつけられないほど貴重な」ものへの信頼に基づいてきた。それ等は市場の埒外にあり、お金のために売り買いされるべきではない。


たとえ市場が良い値を提示しても、けっして売買されないこともある。親は子供を奴隷として売ってはならない。敬虔なキリスト教徒は地獄に堕ちるような滞在を犯してはならない。忠義な騎士は絶対に主君を裏切ってはならない。先祖代々の部族の土地は、けっしてよそ者に売ってはならない。

貨幣は、ダムの亀裂に滲み込む水のように、いつもこうした障壁を突破しようとしてきた。」


「貨幣には、さらに邪悪な面がある。貨幣は見ず知らずの人どうしの間に普遍的な信頼を築くが、その信頼は、人間やコミュニティや神聖な価値ではなく、貨幣自体や貨幣を支える非人間的な制度に注ぎ込まれたのだ。


私たちは赤の他人も、隣に住む人さえも信用しない。私たちが信用するのは、彼らが持っている貨幣だ。」



「従って、人類の経済史はデリケートなバランス芸だ。人々は貨幣に頼って、見知らぬ人との協力を促進するが、同時に、貨幣が人間の価値や親密な関係を損なうことを恐れている。


貨幣の移動と交易を長きにわたって妨げて来たコミュニティのダムを、人々は一方の手で喜んで打ち壊す。だが、彼らはもう一方の手で、市場の力への隷属から社会や宗教、環境を守るために、新たなダムを築く。

市場がつねに幅を利かせ、王や聖職者、コミュニティによって築かれたダムは貨幣の潮流にそう長くは持ちこたえられないと考えるのが、今日一般的だ。だが、それは単純すぎる。野蛮な戦士や宗教的狂信者や憂慮した市民たちが、計算高い商人をこれまで何度となく打ちのめし、経済を作り変えさえしてきた。


したがって、人類の統一を純粋に経済的な過程として理解することはできない。歳月を経るうちに、何千もの孤立した文化がまとまって今日のいわゆる地球村(グローバル・ヴィレッジ)を形成するに至った経緯を理解するには、金銀の役割を考慮に入れなくてはならないが、それに劣らず極めて重要な武力の役割も、けっして無視できないのだ。」


〇経済と武力が現在の「地球村」を作った。