読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

ジャパン・クライシス

「誰が国債を買っているのか
橋爪   国債の買い手としては、銀行や証券会社といった、機関投資家がいるわけですが、それ以外の企業や個人も自由に買えるものなのでしょうか。


小林   いえ、政府から直接、国債を購入できるのは証券会社や銀行などの金融機関に限られています(プライマリーディーラー制度)。


橋爪   とすると、一般企業や個人は、国債を「間接的に」買うわけですね。


小林   はい、個人や民間企業が、金融機関(証券会社や銀行、生損保など)に預金や生命保険口座としてお金を預け、そのお金で金融機関が国債を購入し、資産として保有している、という形になっています。このほか、個人向け国債というものがあり、募集期間内に金融機関等に申し込めば、誰でも購入できるようになっています。



(略)



橋爪   ヘッジファンドはそういう配慮をするでしょうか。


小林   しないでしょうね。いくら日本政府や日銀が圧力をかけても、言うことを聞くような相手ではありません。
ただ、ここ二〇年のことで言うと、日本の国債はもう駄目だろうと幾度も海外で噂になって、ヘッジファンドが日本国債売りを仕掛けてきたのですが、そのたびに国内投資家が買い支えて乗り切って来ました。



つまり、日本国債を売り崩そうとした海外のヘッジファンドは必ず失敗して来たんです。ですから、海外のヘッジファンドもだいぶ懲りていて、日本国債空売りしたり、値崩れを起こさせたりするような戦略は、そう簡単には採りにくくなっています。」





国債が紙くずになる!?

橋爪   じゃあつぎに、国債の「償還」とはどういうことでしょう。


小林   国債が満期になり、保有者がその満期国債を政府に渡すと、政府が額面通りの日銀券に交換してくれる。これが国債の償還と言うことです。簡単に言うと、政府が借金を返済することです。



橋爪   では、デフォルト(債務不履行)とはどういうことですか?


小林   政府が借金を返済できない状況のことです。額面100万円の国債を償還する期限が来たので元金を戻してもらおうと政府に持って行ったのに、100万円の日銀券がもらえないという状況です。


橋爪   債務不履行による不法行為と言ってもいい?

小林   はい。

橋爪   とすると、それは民事上の不法行為になりますか、それとも刑事上の不法行為でしょうか?手形を支払えない場合は民事上の罪を問われるだけですが、小切手を支払えない場合は刑事犯になると聞いたことがあります。国債は手形なのか小切手なのか、という質問です。


小林   はて、刑事犯かどうかという視点で考えたことがなかったです。おそらく刑事犯にはならないはずです。法律上は手形の不渡りと同じ扱いになると思います。



橋爪   それなら国債がデフォルトになっても、政府の人々は誰も逮捕されないし、責任も取らないだろう、ということですね。
これまで国債がデフォルトになった例を教えてもらえますか。


小林   記憶に新しい所では、九八年夏にロシアがデフォルトに陥っています。
その前からロシアの財政状況は悪化していたのですが、そこに来て、九七年にアジア各国で通貨が急激に下落(アジア通貨危機)、その余波もあって、ロシアの通貨であるルーブルが暴落し、国際償還が困難になりました。そのため、九〇日間のモラトリアム(対外債務の元利金の支払い停止)を宣言するとともに、債務の返済期限を延長せざるをえなくなりました。



これがロシアのデフォルトです。このロシア財政危機によって、ロシア国債に莫大な投資をしていた米国の大手ヘッジファンドLTCMが破綻しました。LTCMの役員にはノーベル経済学賞を受賞したロバート・マートンらが名を連ね、その信用で巨額の資金を米国で集めていましたから、LTCMが破綻すれば世界の金融システムが崩壊する、という危機感が広がり、ニューヨーク連銀が主導して救済しました。世界的な金融恐慌が起きる一歩手前まで行ったのです。



橋爪   デフォルトが起きたわけですから、満期になったロシア国債が償還されなかったというのはわかります。まだ満期になっていない国債はどうなったのでしょうか。


小林   「ロシア国債が危ない」という心理がマーケット中に広がり、世界中の投資家たちが、満期になっていないロシア国債を売ろうとしました。しかし、当然のことながら、買い手はつきませんから、価格は暴落。



橋爪   どれくらい暴落したのでしょう。


小林   暴落といっても、国債が紙くずになるほどではなかったと思います。このときロシアの通貨ルーブルの対ドルレートは、危機前の六分の一の価値まで下落しましたから、そのくらいの価値低下があったと思います。ロシアは天然ガスや石炭などの資源が豊富なので、経済の基礎体力は強かった。



そのため、ルーブルが安くなると資源輸出が増えて、しばらくしたらロシア経済は持ち直しました。ただ、波及効果が大きすぎたので、世界的な経済危機を招いてしまったのです。



(略)



橋爪   つまり、国債が紙くずになった例はあるということですね。
では、戦争以外の理由で国債が紙くずになってしまった例はありますか?



小林   すべての国債が紙切れになってしまうという事例はないと思います。
アルゼンチンが二〇〇一年に債務不履行宣言を発した時、アルゼンチン政府は、同国の国債保有している海外の金融機関に対して、「返済額を減額してくれ」と交渉したのですが、決着がつかず、未だに裁判で争っています。



橋爪   それは、債務の圧縮を債権者に持ち掛けるような話ですか。


小林   そうです。期限通りに国債の償還ができないということは、政府が倒産するのと同じことですから、言ってみればこれは、倒産後の債務の圧縮交渉を、今に至るまで延々と続けているようなものです。



もちろんアルゼンチンは、新たに借り入れをしたいのですが、海外の銀行はどこも貸してくれないという状況が続いています。」



(略)



「橋爪   日銀には独立性がありますよね。


小林   はい。このため日銀は、国債の買取量を自分で判断しています。


橋爪   ということは、政府としては、「いざとなったら日銀が自主的に判断して、無期限に国債の買い入れをやってくれるだろう」と、期待するしかないわけですか。



小林   現行制度では、政府と日銀の間で阿吽の呼吸で、国債のデフォルトが起きないような政策を日銀が取るという形になると思います。しかし、確実にリスクを回避することを考えるならば、日銀の独立性を奪うような法律を新たに作らなければなりません。



橋爪   もしもデフォルトに陥ったとしたら、債務がいったいどれくらいの額になるのか、ちょっと想像がつかないのですが……。いま、毎年どれくらいの国債が、償還期限を迎えているのでしょうか。



小林   毎年一二〇兆円ぐらいです。

橋爪   うわあ! 一二〇兆円!

小林   つまり政府は、満期を迎えた国債の元金を返済すべく、毎年、一二〇兆円規模のお金を用意しなければならない。


橋爪   とすると政府は、一二〇兆円を毎年用意しなければならないので、その分の国債を新規に発行しているということですか。


小林   正確には、借り換え国債を新たに発行しているということですね。しかし、それだけではありません。予算と税収の不足分を補うために、毎年、三〇兆円から四〇兆円分の国債を新規発行しているのです。合計すれば、毎年、約一六〇兆円分の国債を発行していることになる。



橋爪   マーケットの状況が悪化して、新規国債を発行できなくなったなら、一二〇兆円分か一六〇兆円分かの日銀券を刷らなければならなくなるということですか。



小林   基本的にはそうです。(略)


橋爪   日本の通貨の発行量はいま、どのくらいですか。


小林   いわゆる現金(一万円札などの日銀券)はいま約九〇兆円分が流通しています。(略)


橋爪   そこに一〇〇兆円の日銀券が新たに注入されたなら、明らかに、インフレになりますね。


小林   毎年そのペースで増え続ければ、インフレですね。それも、容易には止められないような、ひどいインフレになるはずです。


橋爪   ある年にそれが起きたなら、どうなりますか。


小林   次の年もその次の年も、誰も国債を買わない状況が続けば、その分を日銀が買い支え続けなければならないことになります。


橋爪   デフォルトは起きないものの、かわりに日銀券を刷り続けるから、インフレが生じるということですね。


小林   はい。
国債の買い手がつかず、日銀がそれを買い支える状況が続けば、ひどいインフレが生じて、それをコントロール出来なくなる可能性があるということです。



病状診断のポイント

1  日本経済は、いつハイパーインフレ心筋梗塞)に見舞われてもおかしくない状況である。

2  国の借金額は一〇〇〇兆円を突破した。一人当たり約八〇〇万円の借金がある計算になる。

3  国債とは、税金の不足を補うために発行される政府(=国民)の借金である。

4  満期になった国債を政府に渡せば、政府は額面通りの日銀券に交換してくれる。これを国債償還という。

5  国債の借り換えと税収の不足分を補填するため、政府は毎年、約一六〇兆円分の国債を発行している。もしこれをすべて日銀が引き受ければ、早晩、悪性インフレになる。」