「財政再建の条件とは?
橋爪 ここまでの議論をまとめてみましょう。
われわれはタイタニック号に乗っているようなもので、このままだと氷山に衝突して沈没してしまう。でも、うまく舵を切ればまだ間に合う。そう簡単ではありません。でも、やるしかない。
この大事業を成功させるための条件は、何でしょう。
小林 二つあります。一つは国際環境が安定していること。もう一つは国内秩序が安定しており、経済成長を可能にする潜在力が十分備わっていることです。
橋爪 国際環境は、われわれの努力だけではどうにもできない面があります。どんな条件が整えば、安定していると言えるのでしょう。
小林 中国や朝鮮半島など東アジアの安全保障環境が混乱すれば、日本はその修復のために力を割かなくてはならなくなりますし、日本経済も混乱を来しかねません。
ですから日本を含む東アジアが平和で安定した安全保障環境を維持することが大前提となります。
橋爪 その根幹は、安定した日米関係だと考えていいですか。
小林 私はそう考えています。(略)
橋爪 「日本はアメリカと手を切って、自立せよ」と説く人もいますが、私はそれには反対です。当面は日米同盟を基軸とするのが、賢明でしょう。
小林 自主独立は非現実的だと私も思います。(略)
中国を、国際秩序に対する挑戦者にしないことが肝心です。言うまでもなく中国は、日本にとってきわめて重要なマーケットです。(略)
しかし、政治的な側面で言うと、現在、日中間には深い亀裂が走っています。その修復が必要です。
橋爪 中国は、国内の矛盾が深まっているのは間違いない。ジニ係数(所得分配の不平等を測る指数)が、危険水域の〇・四を突破し、〇・五に達しているという話もあります。他にも不安定要因がいろいろあります。中国に何か突発的な事態があったとき、どうすべきか考えておかなくてはなりません。
小林 その通りです。中国で政変が起きたり、日中間で武力衝突が起きたりしたら、それがきっかけとなって財政危機が生じかねません。そうなってしまうと、経済・財政政策をいくら打とうが、もうどうにもなりません。
橋爪 もう一つの条件、国内秩序のほうはどうでしょ。
小林 まず人口問題です。既に人口減少が始まっており、このまま行くと二〇六〇年には八〇〇〇万人を下回ってしまうかもしれません。一五〇年後には四〇〇〇万人にまで落ち込んでしまうという試算もある。これは明治初期の人口とほぼ等しい数です。
ということは、明治維新以降、一五〇年かけて人口が増えていき、次の一五〇年で最初の段階に戻って行くということです。
こうした大規模な社会変動に備えて、社会の仕組みを作り替える必要があります。社会保障制度であれば、すでにお話したように、年金制度を賦課方式から積み立て方式転換しなければなりません。(略)
このように、社会の構造変化によって生じる新たなニーズに対応した新技術を作り出していくことが大切です。
橋爪 全く同感です。(略)
「介護ロボット」は高くて買えない国もあるでしょうが、このパッケージは役に立つ。高齢化を日本の弱点にせず、新たな成長のステップにする。
小林 おっしゃるように、高齢化をネガティブに捉えるのは間違いで、これから五〇年、一〇〇年と続くわけですから、新しい技術や産業を生み出すための契機にすべきです。」